建築になった展示装置 — 虎ノ門ヒルズ TOKYO NODE と街へ滲むスクリーン
Architecture as Exhibition Apparatus: TOKYO NODE at Toranomon Hills and the City-Facing Screen
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虎ノ門の交差点で、スマートフォンを目の前の高層タワーにかざす。すると画面のなかで、ガラスと石の外壁がすうっと切り取られ、その奥から踊り手が現れて、建物の側面を伝って動きはじめる。実際の壁はもちろん何も変わっていない。けれど端末の小さな窓ごしには、街でいちばん新しいビルの外皮が、いま一枚のスクリーンに変わっている。
これは森ビルが運営するアプリ「TOKYO NODE Xplorer」が、虎ノ門ヒルズ ステーションタワーの足元で見せる光景である。そして、この「建物の壁が映像面になる」という出来事は、タワーの最上部に置かれた一つの施設の性格を、街路の側からそのまま映し返している。本稿で扱うのは、その施設——2023年10月6日に開業した情報発信拠点、TOKYO NODE である。
最上部に積まれた展示装置
TOKYO NODE は、独立した建物ではない。虎ノ門ヒルズ ステーションタワーという、地下鉄日比谷線の駅と一体で建てられた超高層ビルの、8階と45〜49階に分散して入っている。設計は OMA のショヘイ・シゲマツ(重松象平)が手がけた。施設全体でおよそ1万平方メートル。展示・興行・研究開発・飲食・庭園が、タワーの上部に縦に積み重なっている。
その中核が、45階の GALLERY A・B・C と、46階の HALL である。45階のギャラリーは三室で合計およそ1,500平方メートル。なかでも GALLERY A は、最高約15メートルに達するドーム状の天井を持つ。B は天井高5.5メートルで約1,020平方メートルという、超高層階としては異例の床面積。C は12メートルの自由空間。46階の HALL は約460平方メートル・客席約330、最高天井は11.6メートルに及ぶ。
ここで注目したいのは、これらの空間が「映像を映すための面」を建築の側にあらかじめ織り込んでいることだ。HALL の舞台背面には、幅16メートル・高さ9メートルのホライゾンスクリーンと、その手前に置かれた透過型 LED ビジョンがある。4K 対応・36,500ルーメンのプロジェクターが正面から像を重ね、昇降する舞台機構と相まって、同じ部屋がビジネスの発表会にも、ライブにも、没入型の上映空間にも組み替わる。スクリーンは什器として後から運び込まれるものではなく、天井高と昇降床と投影距離が、最初から一体で設計されている。
「造」というカテゴリーで TENKEI が見てきたのは、スクリーンが建築の躯体に不可分に統合された事例だった。ラスベガスの Sphere の球体外周、ヴィクトリア湾を渡って視認されるM+ ファサード——いずれも「外から見られる一枚の巨大な面」を建築化したものである。TOKYO NODE はそれとは対照的に、「中に入って組み替えられる装置」としてスクリーンを建築化した。面ではなく、可変の容れ物そのものが展示装置になっている。
壁が動く——開館の実証
その性格を、開館記念企画がそのまま実演してみせた。Rhizomatiks と、MIKIKO 率いるダンスカンパニー ELEVENPLAY による《Syn : 身体感覚の新たな地平》である。2023年10月6日から11月12日までの38日間、最高15メートルの天井を持つギャラリーを舞台に、24人のダンサーが約70分のパフォーマンスを繰り広げた。
《Syn》の主役は、ダンサーと並んで、空間そのものを区切り直す可動の「壁」だった。観客は一本道の物語を見せられるのではなく、壁が動くたびに更新される複数の場面のあいだを、自分の選んだ順路で歩いていく。AI が人間を分析する序章、壁とダンサーが空間を変形させていく本編、音楽に寄った終章——同じ部屋が、上演の進行とともに別々の場所へと姿を変える。15メートルの天井も、昇降する舞台も、可動壁も、すべてが一つの作品のために動く可変要素として使われた。建築が固定された器ではなく、上演のあいだ刻々と編集される面の集合だったのである。
開館記念がパフォーマンスとして可動壁を主題化したことは、偶然ではない。TOKYO NODE の建築そのものが、もともと「組み替えられること」を前提に設計されている。その思想を最も鋭く可視化できる作家として、舞台空間とテクノロジーの境界を長く問うてきた Rhizomatiks × ELEVENPLAY が選ばれた。以後、施設は蜷川実花の大規模個展をはじめ、会期ごとに編成を入れ替える企画展を連続させていく。容れ物が固定されないからこそ、映像表現の種類を選ばずに受け止められる。
街へ滲み出すスクリーン
TOKYO NODE のもう一つの軸は、8階の TOKYO NODE LAB にある。ここは展示室ではなく、森ビルが外部のクリエイター・企業とともに新しい都市体験を試作する、通年の実験拠点だ。冒頭に書いた「壁が溶けて踊り手が現れる」AR アプリ「TOKYO NODE Xplorer」は、この LAB から生まれた。
Xplorer は、ソニーの VPS(視覚位置測位)技術と、国土交通省の3D 都市データ整備事業 PLATEAU、そして森ビルが持つ高精度な建物データを重ね合わせている。カメラを虎ノ門ヒルズ ステーションタワーやその周囲に向けると、端末は自分がいまどこを向いているかをセンチメートル単位で割り出し、現実の建物の上にぴたりと AR コンテンツを定着させる。ボリュメトリック・スタジオで撮影されたダンサーの立体映像が、タワーの壁を切り開いて現れる——という冒頭の光景は、こうして成立する。
ここに、この施設の「造」としての特異さが集約されている。M+ や Sphere が、巨大な実体スクリーンを建築の外皮に貼りつけて街に差し出したのに対し、TOKYO NODE は実体としての街路向けスクリーンを持たない。代わりに、建物の外形そのものを精密にデータ化し、来街者の端末を介して、街区のどこにでも一時的な映像面を開く。最上部に積まれた展示装置の論理——固定の面ではなく、組み替え可能な場——が、そのまま地上の街区へ滲み出している。
間を空け、点景を点す
「間(MA)」と「点景(TENKEI)」という対概念で見ると、TOKYO NODE の設計の輪郭がはっきりする。
HALL や GALLERY が体現しているのは、徹底して「間」を空ける思想である。15メートルの天井、可動の壁、昇降する舞台、什器ではなく建築に織り込まれたスクリーン——これらはどれも、特定の表現を固定しないために用意された「空き」だ。容れ物の側をあらかじめ空けておくことで、会期ごとにまったく異なる作品を、同じ部屋が受け止められる。《Syn》の可動壁は、その「間」を上演中にリアルタイムで開け閉めしてみせた、極端な実演だったと言える。
一方 Xplorer が街路で見せるのは、まぎれもなく「点景」である。虎ノ門の見慣れた風景のなかに、端末をかざした一瞬だけ、踊り手という小さな存在が立ち上がる。山水画の舟や旅人がそうであるように、それは風景を占有しない。ある場所に現れ、しばらく振る舞い、端末を下ろせば消える。建物という巨大な「間」が、来街者の手のなかで、その都度ひとつの「点景」を点していく。
都市の最上部に空けられた可変の器と、地上の街区に瞬間ごとに点される映像。TOKYO NODE が示しているのは、街に向けたスクリーンが必ずしも「常時光り続ける一枚の大きな面」である必要はない、という一つの解答である。器をあらかじめ空けておき、必要なときにだけ図版を点す。固定された面の物量で街を覆うのではなく、編集可能な空白と、その上に立ち上がる束の間の像とで、風景に意味を与える。それは、サイネージという語が連想させる「掲出され続ける広告面」とは、別の系譜に属する街のスクリーンのかたちだ。
虎ノ門の交差点で端末をかざした人が見ているのは、ガラスの壁の奥から現れる踊り手であると同時に、その壁の上の階に積まれた、組み替えられ続ける展示装置の遠い影でもある。建物の最上部で空けられた「間」が、地上の「点景」として、街の風景にひとつの方角を与えている。(身体ごと作品に入る没入を別の角度から問うた事例としても、併せて読まれたい。)
出典
- TOKYO NODE 開館記念企画 “Syn : 身体感覚の新たな地平” by Rhizomatiks × ELEVENPLAY ティザームービー 2(2023-10)
- ELEVENPLAY x Rhizomatiks “syn” (2023) multicam — Daito Manabe(2023)
- 【プレスリリース動画】「TOKYO NODE Xplorer」に SoVeC のデジタルツイン技術が採用(2023)
- TOKYO NODE — 公式サイト
- TOKYO NODE HALL — 設備・仕様
- 虎ノ門ヒルズ ステーションタワー — 森ビル プロジェクト
- 虎ノ門ヒルズ ステーションタワーが10月6日オープン。「TOKYO NODE」開館記念企画はライゾマティクスとイレブンプレイの新作 — Tokyo Art Beat(2023-10)
- 新しい都市体験のための AR アプリ「TOKYO NODE Xplorer」 — TOKYO NODE LAB
- TOKYO NODE — Wikipedia(日本語)
運用カルテ
- 森ビル(TOKYO NODE 運営室)
- 東京
- オペレーター委嘱 — 施設オペレーターが会期ごとに作家へ委嘱・編成し、多くを入場料制の企画展として運営。開館記念は Rhizomatiks × ELEVENPLAY へ委嘱
- 会期制の企画展が連続(開館記念 Syn は2023年10月6日–11月12日の38日間)。8F LAB は通年の実験・共創拠点
- 施設全体 約10,000㎡(8F・45–49F)。GALLERY A/B/C 計約1,500㎡(A はドーム天井 最高約15m・約240㎡)。HALL 約460㎡・客席約330・最高天井11.6m、W16×H9m のホライゾンスクリーン+透過型LEDビジョン+4K・36,500lm プロジェクター
- 2023-10
- 稼働中