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Artists作家

画面を消すための画面 — teamLab と没入興行のモデル

Screens That Erase the Screen: teamLab and the Box-Office Model of Immersive Art

No.
122
種別
作家
著者
SCREENS LANDSCAPE 編集部
日付
読了
13分

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靴を脱ぎ、裾をまくり、膝下まで水に入る。豊洲のteamLab Planetsで観客がまず通過するのは、足裏の感覚と暗闇だけが頼りになる導入路である。そこには額縁もスクリーンの枠もない。映像は壁の一面に貼られているのではなく、水面に、床に、自分の身体の輪郭そのものに巻きついてくる。観客が立ち止まれば鯉の群れが足を避けて泳ぎ、観客が動けば光が割れて散る。本誌がふだん追いかけてきた都市のスクリーン——通りの広告面にひらく数分間の空隙、ファサードに点る一枚の画——とは、ほとんど正反対の経験がそこにある。街は遮断され、画面は消され、代わりに身体ごと作品の内側へ沈められる。

teamLab(チームラボ)は、この「画面を消すための画面」という逆説を、世界で最も大規模に、そして最も収益的に成立させてきた集団である。

fig.001《Drawing on the Water Surface Created by the Dance of Koi and People - Infinity》。水面を泳ぐ鯉は鑑賞者の動きに反応して進路を変え、人にぶつかると花となって散る。膝下まで水に入って鑑賞する、teamLab Planets の代表作。Koi swimming across the water change course in response to visitors and scatter into flowers on contact — a signature of the water-immersion area at teamLab Planets.© teamLabsource

系譜 — 理工系の学生五人から六百人へ

teamLabの設立は2001年。法人としての登記は前年末にさかのぼる。創業したのは、東京大学工学部計数工学科を出たばかりの猪子寿之(1977年、徳島生まれ)を中心とする五人で、東大・東京工業大学の理工系学生たちだった。出発点が美術大学でも画廊でもなく、確率統計と自然言語処理を学んだエンジニアの集団だったことは、その後のすべてを規定している。

teamLabは自らを「ウルトラテクノロジスト(ultratechnologists)」の学際的集団と呼ぶ。アーティスト、プログラマー、CGアニメーター、数学者、建築家、エンジニア、編集者が同じ制作現場に混在し、専門領域の境界を意図的に溶かす——「transferable knowledge」を運営原理に掲げる。人数は時期によって表記が揺れるが、2024年時点で六百人を超える規模に達している。個々の作品はすべて「teamLab」単一名義で発表され、誰がどの部分を作ったかは明かされない。この匿名性は、後述するように、批評的にも興行的にも大きな意味を持つことになる。

国際的なプレゼンスの起点は、2014年にニューヨークの大手画廊Pace Galleryと代表契約を結んだことだった。ただし日本国内では、teamLabは画廊モデルではなく、自前の常設施設を運営する興行モデルを主軸に選ぶ。teamLab自身が「初期は日本のアート界に無視されていた」と回顧する通り、批評の制度的承認を待つのではなく、観客動員という別の正統性を先に取りに行った集団である。

画面を消すための画面 — 五つの概念

teamLabは「個別作品」よりも「概念」をブランド資産として運用する。公式サイトには二十ほどの概念ページが並ぶが、コレクティブの設計思想を支える柱は次の五つに集約できる。

ひとつめがBorderless(ボーダレス)。作品同士が物理的・概念的な境界を持たず、互いの空間を移動し干渉する状態を指す。一枚の画が壁・床・天井・隣室へ越境していく。猪子は、人は言語と論理で世界を分割して理解するうちに「すべてが境界なく連続している」という認識を失った、と語る。Borderlessはその失われた連続性を空間として復元しようとする試みであり、東京・上海・ジェッダ、そして2026年のハンブルクに至る旗艦施設の共通ブランド名になっている。

ふたつめがBody Immersive(身体没入)。視覚だけでなく身体全体を作品に沈める設計で、Planetsの「水に入る」「裸足になる」体験に典型化される。現代人は写真や映像のレンズ越しに世界を見ており、身体と世界のあいだに境界が生まれている——その境界を、足裏や湿度や暗闇によって消去する。画面を見るのではなく、画面の内側で濡れる。

みっつめがUltrasubjective Space(超主観空間)。西洋の遠近法ではなく、日本の絵巻物に見られる移動視点・複数時間軸の併存を、デジタル空間で再構築する概念である。確率統計と自然言語処理の出身者が、絵巻・襖絵・浮世絵の空間表現を「論理を持った非デカルト的な空間記述」として再評価し、それを工学で実装する。欧米の個人作家がしばしば「機械やデータの視点」を主題にするのに対し、teamLabが据えるのは「東洋的な人間の知覚」である点が、思想的な差異化の核になっている。

残るふたつ、**Digitized Nature(デジタル化された自然)Co-Creation(共同創造)**は、興行のかたちと直結する。前者は森・滝・温泉・棚田といった既存の自然に物理的改変を加えず、デジタル技術でその場所そのものを作品化する方法論(佐賀・御船山楽園が代表例)。後者は、観客が描いた絵が水槽を泳ぎ出すSketch Aquariumのように、観客を作品の生成因子として組み込む原理である。Co-Creationは、観客を「鑑賞者」であると同時に「作品の一部」であり「物販の顧客」でもある三重の存在へと変える。

五つの概念に共通するのは、スクリーンを「世界をのぞく窓」として使うのをやめる、という方向だ。本誌が追う街路のサイネージが「窓」を都市に開けるとすれば、teamLabは窓枠を消し、観客を画面の向こう側へ連れていく。画面を消すために、空間のすべてを画面で覆う。

fig.002《増殖する生命》。花が生まれ、咲き、やがて散って枯れる生と死のサイクルが、あらかじめ録画された映像ではなくリアルタイムに描き続けられる。同じ瞬間は二度と訪れない。Proliferating Immense Life: a real-time, never-recorded cycle of flowers being born, blooming, scattering and dying — no two moments alike.© teamLabsource

興行というかたち — 不動産と国家を巻き込む

teamLabを同時代のどのコレクティブからも決定的に分かつのは、自前の常設チケット制興行を世界十拠点超で運営する経営構造である。制作スタジオ・興行会社・コンテンツライセンサーの三つの事業を内蔵し、その規模と恒常性は、欧米の同種スタジオ(Random International、Universal Everything、Marshmallow Laser Feast)が軒並み「美術館・画廊の巡回/期間限定」モデルにとどまるのと対照的だ。teamLabの常設施設はほぼ例外なく、大型不動産開発主体か国家の文化観光当局との合弁・共同事業として組成される。

時系列を追うと、その拡張の論理が見えてくる。2018年、お台場の森ビル「MORI Building DIGITAL ART MUSEUM」にBorderlessが開館(約10,000㎡)。翌2019年には年間219.8万人を集め、「単一の作家による最も入館者の多い美術館」としてギネス世界記録に認定された。同じ2018年、豊洲ではDMMと組んだPlanetsが開く。お台場のBorderlessは2022年にいったん閉館し、2024年2月、森ビルの再開発・麻布台ヒルズへ移転再開した——開館初年の入館者155万人、うち国際客が65%という構成は、この施設が東京の文化観光のハブとして機能していることを示している。豊洲のPlanetsも2023年度に250万人超を動員し、二度目のギネス記録を得た。

海外展開も、提携先の顔ぶれがそのまま戦略を物語る。シンガポールのマリーナベイ・サンズ(2016年〜)、マカオのSands China(2023年〜)といったカジノ・統合型リゾート。サウジアラビア文化省(ジェッダ、2024年〜)、アブダビの文化観光局(2025年〜)といった湾岸国家。そして欧州では金融資本のUBSと組み、2026年春にハンブルクで大陸最大級の常設館が開く予定だ。とりわけ2025年4月にアブダビで開いたPhenomenaは約17,000㎡で世界最大、しかもteamLabにとって初の「専用建築」である。これまで既存の建物の内側を作品で覆ってきた集団が、ついに器そのものを作品のために建てた。

fig.003《Entangled Sun》。光と色彩が空間そのものを満たす近作のひとつ。単一のスクリーンではなく、観客を取り囲む環境の総体が画面になる。Entangled Sun — a recent work in which light and colour fill the space itself; not a single screen but the entire enveloping environment becomes the image.© teamLabsource

ここで成立しているのは、チケット・物販・創作体験を一体化した収益構造だ。Pace経由の三都市巡回(2010年代後半)だけで興行収入は約1,000万ドルに達したと報じられる。単年で数百万人規模の有料動員を継続できる「作家」は他に存在せず、その経営規模は美術というよりCirque du SoleilやDisney Imagineeringと同じ列で語るほうが正確だろう。

動員では圧勝、批評ではグレー

teamLabの評価は、賛否を等しい比重で置かないと像を結ばない。

肯定の側から見れば、Pace Galleryの代表Marc Glimcherはこれを「ポストアートの理想形」と呼び、シリコンバレーの富裕層に現代美術を届ける最良のプロダクトと位置づけた。The Art Newspaperは麻布台のBorderlessを「全身の歓び」と評し、アブダビのPhenomenaを「サアディヤット文化地区の観光モデルを更新する装置」として中立から肯定で迎えている。世界経済フォーラムや湾岸の文化当局は、teamLabを「ソフトパワーとしての文化観光モデルの参照点」として制度的に承認してきた。子ども向けのFuture Parkは世界累計600万人超が参加し、デジタル教育のスタンダードの一つとして紹介される。

一方で、批評の側にはいくつもの留保がある。ARTnewsは2021年、「teamLabはアートワールドを必要としているのか」と問うた——美術館や画廊や批評の制度的承認を、そもそもこの集団は要していないのではないか、という問いである。「深い瞑想よりもSNSで拡散される画像のために設計され、自撮り優先の動線になっている」という「インスタ映え」批判も繰り返されてきた。Boston Globeの評者は、その映像を「陳腐で感傷的」と切り捨て、「自然と人間性」という掲げられた主題が誇張で重いと書いた。2021年には、teamLab自身がロサンゼルスの類似施設Museum of Dream Spaceを著作権侵害で提訴している。視覚的な類似だけで模倣を訴える戦略は、teamLab自身のオリジナリティ主張を侵食しかねない、という懐疑も同時に示された。

興味深いのは、個人作家がしばしば集中砲火型の批判に晒されるのに対し、teamLabがそれを比較的免れていることだ。コレクティブの匿名性が個人攻撃を希釈し、観客の圧倒的な支持の前で批評が空転し、Pace・森ビル・国家文化当局という機関的承認が早い段階で揃った——その複合が、批評と興行のどちらを正統性の源泉とするかという順序を、静かに反転させている。

点景の反対側

teamLabが提示するモデルは、本誌が「点景」という言葉で追ってきたものの、ちょうど反対側にある。

街路のサイネージにアートが宿るとき、その画面は商業の連続したシーケンスにわずかな「間」をひらき、そこに月替わりの一作が点景として立ち上がる。点景は空間を占有しない。都市の風景のなかにぽつりと現れ、しばらく振る舞い、また消えていく。山水画の舟や旅人のように、風景の主役ではなく、風景に時間と方角を与える小さな印として置かれる。それは「街そのものを美術館にする」——本誌の母体であるNEORTがミッションに掲げる方向——の、ひとつの実装である。

teamLabが選んだのは、その正反対の解だった。街を畳み、画面の枠を消し、観客をチケットの向こうの暗闇へ連れ込む。美術館は街に溶けるのではなく、街から切り離された閉じた器として建てられる。そこでは作品は点ではなく環境であり、観客は通りすがりの目撃者ではなく、裸足で水に入り、身体ごと沈み込む参加者になる。そして決定的なのは、その器のなかで人が「群れる」ことだ——一人で画面を見上げるのではなく、見知らぬ他者と同じ暗闇を共有し、互いの動きが作品を変えていく。teamLabにおいてスクリーンは、孤独な鑑賞の窓ではなく、集合(会)を起こす場の装置になっている。

fig.004《自立しつつも呼応する生命》。林立する光の柱は、人が近づくと色を変え、もっとも近い別の柱へ光と音を呼応させて連鎖させる。人の集まりそのものが、空間の明滅をかたちづくる。Autonomous Resonating Life: standing columns of light shift colour as people approach, relaying light and sound to the nearest neighbour — the crowd itself shapes the room's pulse.© teamLabsource

どちらが正しいという話ではない。街にひらく数分間の間と、街から切り離された総合的な器とは、「デジタルアートはどこに棲むのか」という同じ問いに対する、二つの異なる工学的な解である。一方は都市を美術館に変えようとし、もう一方は美術館そのものを一個の宇宙として完結させようとする。teamLabが二十数年かけて実証してきたのは、後者を——批評の承認を待たずに、数百万人の身体と引き換えに——成立させられるという事実だった。

靴を脱いで水に入った観客が、暗闇のなかで自分の足を避けて泳ぐ光の鯉を見るとき、その人はもう街路にはいない。teamLabは画面を消すために、世界のすべてを画面にした。そしてその画面の内側に、街では決して起きない密度で、人を集めている。

出典

  1. fig.001teamLab — Drawing on the Water Surface Created by the Dance of Koi and People - Infinity (official channel)
  2. fig.002teamLab — 増殖する生命 / Proliferating Immense Life (official channel)
  3. fig.003teamLab — Entangled Sun (official channel)
  4. fig.004teamLab — 自立しつつも呼応する生命 / Autonomous Resonating Life (official channel)
  5. [5]teamLab — Official Site (teamlab.art)
  6. [6]teamLab — About / team-lab.com
  7. [7]teamLab — Concepts
  8. [8]teamLab — Borderless TOKYO (Azabudai Hills)
  9. [9]teamLab — Planets TOKYO
  10. [10]teamLab — Phenomena Abu Dhabi
  11. [11]teamLab Borderless Becomes the Most Visited Single-Artist Museum in the World — Business Wire(2019-08)
  12. [12]teamLab Planets TOKYO sets Guinness World Record — blooloop
  13. [13]In Tokyo, teamLab’s giant new immersive space — The Art Newspaper(2024-05)
  14. [14]teamLab’s vast interactive art museum opens in Abu Dhabi — The Art Newspaper(2025-04)
  15. [15]teamLab Borderless Azabudai Hills, one year on — Tokyo Art Beat(2024-11)
  16. [16]teamLab’s Silicon Valley Pace Show — Artnet(2017)
  17. [17]Why Does teamLab Need the Art World? (Andrew Russeth) — ARTnews(2021)
  18. [18]teamLab Sues Museum of Dream Space — Artnet(2021)
  19. [19]Toshiyuki Inoko: Transcending Boundaries — Studio International

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