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Cases事例

広告と作品が分け合う画面 — ロンドン Outernet と The Now Building

A Screen Shared by Advertising and Art: Outernet London and the Now Building

No.
138
種別
事例
著者
SCREENS LANDSCAPE 編集部
日付
読了
12分

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トッテナム・コート・ロード駅の改札を出て地上に上がると、チャリング・クロス・ロードとの角に、天井まで映像で満ちた部屋が口を開けている。入口に料金所はない。予約もいらない。中へ一歩入ると、四層分の高さの壁と天井がひとつづきのスクリーンになっていて、そこには今、韓国のデザインスタジオ d'strict の巨大な図像が流れている。だがその同じ面には、時間が変われば飲料やスマートフォンのブランド映像も映る。ここでは広告と作品が、ひとつの画面を分け合っている。

これが Outernet London、その中核をなす The Now Building である。2022年、開発会社 Consolidated Developments と建築設計事務所 Orms によって、センターポイントの足元、デンマーク・ストリート(かつての「ティン・パン・アレー」)へと続く一角に開かれた。運営は Outernet Global。彼らはこの場所を美術館ともライブハウスとも広告媒体とも呼ばず、「イマーシブ・エンターテインメント地区」と呼ぶ。その曖昧さこそが、この画面の性格をよく言い当てている。

fig.001d'strict《FLOW》(2024)。The Now Building の五面ラップアラウンドLEDを一枚の生きたキャンバスに変える、Outernet を代表するアート委嘱作品。d'strict's FLOW (2024) turning the Now Building's five-sided wrap-around LED into a single living canvas — a signature Outernet Arts commission.© d'strict / Outernet Londonsource

建築としての画面

The Now Building で最初に驚かされるのは、映像の派手さよりも、スクリーンが「壁」であり「天井」であるという事実の方だ。四層吹き抜け、高さにしておよそ14.5メートル。画素ピッチ3ミリのLEDが五つの面を回り込み、内部のスクリーン面積は約1,209平方メートル、床面はさらに約439平方メートルにおよぶ。総面積はおよそ23,000平方フィート。地下には2,000人を収容するライブ会場 HERE が控える。数字を並べると広告設備の仕様書のようだが、重要なのは、この画面が既存の建物に後付けされた看板ではなく、建物そのものとして設計されている点である。

渋谷や新宿の交差点では、スクリーンは建物の外壁に貼られ、通りを歩く群衆に向かって外へ向かって光る。Outernet の画面はその逆で、人を内側へ招き入れ、身体を映像で包み込む。街路に対して開いた「器」でありながら、その内側は展示室のように閉じている。ショーウィンドウが硝子一枚で内と外を隔てたのに対し、ここでは通行人がそのまま画面の内側の空間に入っていく。造(建築・空間としてのスクリーン)の観点から見れば、Outernet は「スクリーンを建てる」という発想が最も徹底された事例のひとつだ。

商業の器に置かれたアート

Outernet は営利のメディア企業である。画面の多くの時間はブランド・パートナーとの商業コンテンツに充てられ、ロサンゼルスとニューヨークへの展開も公表されている。にもかかわらず、この場所を単なる巨大広告装置と切り捨てられないのは、Outernet Arts という無料のアート・プログラムが同じ画面の上に併走しているからだ。ディレクターの Tony Tremlett、クリエイティブ・プロデューサーの Ruth Waters を中心に、現代美術の委嘱・上映を通年で編成する。入場は無料。予約もいらない。商業の器の中に、誰にでも開かれたアートの時間が確保されている。

この構造は、本誌がこれまで追ってきたいくつかの画面と響き合う。ロンドンのピカデリー・ライツで毎晩三分間だけ広告面がアートに明け渡されるCIRCAの実践や、ピカデリー・ライツそのものの運用と比べると、両者の違いがくっきりする。CIRCA が既存の広告ビルボードの時間を一時的に「借りる」のに対し、Outernet はアートと広告が同居することを前提に、そのための部屋を最初から建てた。前者は間(あいだ)に滑り込む点景であり、後者は器そのものを用意する試みである。

広告面を借りるのではなく、広告とアートが同居する部屋を最初から建てる。Outernet が示すのは、画面を「時間で分け合う」ための建築である。

SCREENS LANDSCAPE 編集部

上映されてきたもの

Outernet Arts の系譜は、開業翌年の委嘱から始まる。2023年1月22日から2月26日まで、映像作家 Marco Brambilla の《Heaven's Gate》がヨーロッパで初めて公開された。ハリウッドの「夢の工場」を、無数の映像断片を垂直に積み上げた眩暈のようなコラージュへと変換する作品である。四層の壁面は、この縦に伸びる映像装置にとって理想的な支持体だった。

fig.002Marco Brambilla《Heaven's Gate》。2023年1–2月、Outernet でヨーロッパ初公開された。映像はペレス美術館マイアミによる作品記録。Marco Brambilla's Heaven's Gate, which had its European premiere at Outernet in January–February 2023. Footage: documentation by Pérez Art Museum Miami.© Marco Brambilla / courtesy Pérez Art Museum Miamisource

翌2024年、韓国の d'strict が《FLOW》を発表する。COEX K-Pop Square の《WAVE》で錯視の水槽を街角に出現させた彼らが、今度は五面すべてを使って波と流動そのものを部屋に満たした。そして2025年10月、その続編《FLOW, Thereafter》が公開される。アーティスト Nam Jinu の《Star Cliff》(2023)を「Play(遊び)」と「Hunt(狩り)」という相反する視点から読み替え、巨大な人型が壁を駆け、追い、ぶつかり合う。単発の映像ではなく、先行作を参照し変奏していく連作として、画面上に時間の層が積もり始めている。

アートの供給は自前の委嘱だけではない。2024年11月14日から2025年3月31日まで、Outernet はテート(Tate)と組み、パレスチナ系アメリカ人の抽象画家 Samia Halaby の作品を上映した。テート・モダンの大規模展《Electric Dreams: Art and Technology Before the Internet》に呼応する企画で、Halaby が1990年代にコモドール Amiga 1000 で自ら組んだプログラムに端を発する「キネティック・ペインティング」を、この巨大な画面のために再構成した。Outernet 向けに新たに委嘱された《Tottenham Court Road》と《After the Green and After the Black Dune》の二点に、代表作《Brass Women》(1995/2019)が加わり、音楽家 Four Tet(Kieran Hebden)のサウンドが重ねられた。

2025年5月14日から9月7日にかけては、大英博物館(The British Museum)との協働で、歌川広重の図像がアニメーション化され画面を占めた。同館の企画展《Hiroshige: artist of the open road》と連動し、十九世紀の名所絵が、二十一世紀のトッテナム・コート・ロードの天蓋で動き出す。美術館の所蔵作品が、その建物の外の、誰もが無料で立ち寄れる画面へと溢れ出す回路が、ここには作られている。

fig.003d'strict《FLOW, Thereafter: A Misinterpretation Performance》(2025)。Nam Jinu《Star Cliff》を「遊び」と「狩り」の視点から読み替えた、《FLOW》の続編。d'strict's FLOW, Thereafter: A Misinterpretation Performance (2025) — a sequel to FLOW, re-reading Nam Jinu's Star Cliff through the lenses of ‘Play’ and ‘Hunt’.© d'strictsource

点景としての無料の画面

こうして並べてみると、Outernet の画面には二つの時間が流れていることが分かる。ひとつはブランドの商業的な時間、もうひとつはアートの時間である。両者は対立してはいない。むしろ、商業の器がしっかりと立っているからこそ、その内側に無料で開かれたアートの時間が成立している。広告が建物を支え、アートが建物に意味を点す。間(MA)が器を用意し、点景(TENKEI)がその中身を編集するという関係が、ひとつの部屋の中で時間軸に沿って交替している。

天井まで映像で満たされた部屋は、技術的には都市のどこにでも作れる。だが、そこに何を映すかという編集判断——毎晩の広告のあいだに、いつ、誰の、どんな作品を差し込むか——こそが、この画面を単なる巨大広告から隔てている。トッテナム・コート・ロードの角で無料で口を開けたこの器が、これから商業とアートのどちらへ重心を移していくかは、まだ開いた問いである。しかし少なくとも今、駅を出た通行人は、料金所を通らずに Brambilla や広重や d'strict の画面の内側へ歩み入ることができる。街の風景に意味を点す点景が、商業の器の中に確保されている——その事実そのものが、Outernet を観察に値する現在の事例にしている。

出典

  1. fig.001d'strict — FLOW / FLOW, Thereafter
  2. fig.002Outernet Arts — About
  3. fig.003d'strict — FLOW, Thereafter: A Misinterpretation Performance
  4. [4]Outernet London — About
  5. [5]Outernet Arts — About(Tony Tremlett / Ruth Waters / Foreign Body Productions)
  6. [6]The Outernet — Orms(建築設計)
  7. [7]Outernet London — Wikipedia(開業年・開発・仕様の確認)
  8. [8]Outernet and Tate premiere new work by Samia Halaby with sound by Four Tet — Tate Press
  9. [9]Outernet presents Hiroshige in collaboration with The British Museum
  10. [10]Step Inside FLOW, Thereafter — Outernet London

運用カルテ

運営主体
Outernet Global(運営)/ Consolidated Developments(開発)。アート枠は Outernet Arts が編成
掲出地
ロンドン
編成モデル
オペレーター委嘱 — 商業のイマーシブ・メディア地区として運営しつつ、Outernet Arts が入場無料のアート企画を委嘱・編成する。同じ画面が時間・期間でブランド映像とアートを分け合う
作家への対価
作品はサイト特化の委嘱制作(Halaby の二点は Outernet 向けに specially commissioned)。対価額は非公表
稼働リズム
入場無料・予約不要で通年開放。アート作品は数ヶ月単位でローテーション(Brambilla 2023年1–2月、Halaby 2024年11月–2025年3月、Hiroshige 2025年5–9月、FLOW, Thereafter 2025年10月–)
物理仕様
The Now Building は4層吹き抜け(高さ約14.5m)、画素ピッチ3mm、5面ラップアラウンドLED。内部スクリーン面積約1,209㎡・床面約439㎡、総面積約23,000平方フィート。地下に2,000人収容のライブ会場 HERE
運用開始
2022
稼働状態
稼働中

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