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20時26分の三分間 — CIRCA とグローバル同期スクリーン網

Three Minutes at 20:26: CIRCA and the Globally-Synchronised Screen Network

No.
103
種別
事例
著者
SCREENS LANDSCAPE 編集部
日付
読了
12分

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ロンドンのピカデリー・サーカスでは、毎晩20時26分になると、欧州最大のデジタル広告面が動きを止める。コカ・コーラ、サムスン、ヒュンダイ——通りの北側を埋めていた商品ロゴが一斉に黒く沈み、代わりに一人のアーティストの映像が広告面いっぱいに開く。約二分半。その後、画面は再び広告のサイクルに戻る。

同じ瞬間、東京・新宿のユニカビジョン、ソウルのCOEX K-Pop Square、ニューヨークのタイムズスクエア、ミラノの大聖堂前、メルボルン、ロサンゼルス、ラゴス、ヨハネスブルク——少なくとも十以上の都市の象徴的なスクリーンが、現地時間20時26分に同じ作品を映している。CIRCAという小さな組織が、2020年の秋から世界の都市スクリーンに開け続けている、毎晩三分間の空隙である。

2021年5月、David Hockney《Remember you cannot look at the sun or death for very long》がロンドン・ピカデリー・ライツに点灯した夜。ノルマンディーの自邸でiPadに描かれた朝日のアニメーションが、欧州最大のデジタル広告面を一日に二分半だけ占有した。
fig.0012021年5月、David Hockney《Remember you cannot look at the sun or death for very long》がロンドン・ピカデリー・ライツに点灯した夜。ノルマンディーの自邸でiPadに描かれた朝日のアニメーションが、欧州最大のデジタル広告面を一日に二分半だけ占有した。May 2021. David Hockney's animated sunrise — drawn on an iPad in Normandy — taking over Europe's largest screen at Piccadilly Lights for two and a half minutes each evening.Photo: Yushi Li / © CIRCAsource

時刻が年と同じになるとき

CIRCAが最初に動いたのは2020年10月、最初のロックダウン下のロンドンだった。ピカデリー・ライツのオペレーターであるLandsecと交渉し、毎日20時20分にちょうど二分間、広告画面を譲り渡すという約束を取り付けたのは、英国系アイルランド人のアーティストJosef O'Connorだった。組織名は「Cultural Institute of Radical Contemporary Arts」、頭文字をとってCIRCA。同じ頭文字を、毎日の放映時刻にも刻み込んだ。2020年は20:20、翌2021年は20:21、2022年は20:22——年が変わるたびに、放映時刻が一分ずつ年に追従していく。本稿が書かれている2026年は、20:26がその時刻である。

最初の四ヶ月は、ピカデリー・ライツ一面だけの、ロンドンに閉じたプロジェクトだった。先陣を切ったAi Weiwei、続くCauleen Smith、Eddie Peake、年越し枠のAnne Imhof。ロックダウン下の都市で、観光客の消えたピカデリー・サーカスの広告面が、市民へ向けた毎晩の合図として使われた、というのが当時の文脈である。商業の街路に「文化が短時間だけ立ち入る」という仕掛けは、その文脈においてのみ成立する種類の発明だった——少なくとも当初は、そう見えた。

ところがCIRCAは2021年に入って、ロンドン以外の都市と次々に協定を結び始める。Patti Smith、Tony Cokes、James Barnorが続いた2021年春、David Hockneyの《Remember you cannot look at the sun or death for very long》が放映された5月、放映先はピカデリー・ライツに加え、タイムズスクエア、COEX K-Pop Square、ユニカビジョン、ロサンゼルスの四都市まで拡張していた。ノルマンディーの自邸でiPadに描かれた朝日のループ映像が、各都市の現地時間20時21分に、四つのタイムゾーンを跨いで順番に点灯する——これがCIRCAの「グローバル同期」が初めて完全な形で機能した瞬間として記録されている。

ネットワークの解剖

新宿・ユニカビジョンに点灯したHockneyの朝日(2021年5月)。同じ作品が、ロンドンより九時間遅れて——しかし現地時間では同じ20時21分に——東京の夜空に開く。
fig.002新宿・ユニカビジョンに点灯したHockneyの朝日(2021年5月)。同じ作品が、ロンドンより九時間遅れて——しかし現地時間では同じ20時21分に——東京の夜空に開く。The same Hockney sunrise on Yunika Vision, Shinjuku (May 2021). Nine hours behind London — but at the same local 20:21.Photo: © CIRCAsource

2026年現在、CIRCAが日毎に放映を流す拠点は、公表ベースで十都市・二十数面に及ぶ。ロンドンのピカデリー・ライツ、ニューヨークのタイムズスクエア・ビルボード、ソウルのCOEX K-Pop Square と LIVE PLAZA、東京のユニカビジョン、ロサンゼルスのStandard Vision、ミラノの大聖堂前を含む五面、ローマの七面、ベルリン、メルボルン、香港。アフリカ大陸ではラゴス、アクラ、アビジャン、ヨハネスブルク。月替わりで一人の作家が選ばれ、その作品が一ヶ月間、すべての拠点で毎晩三分弱、現地時間20時26分に同期して点灯する。

運営は完全に自走モデルである。CIRCAは政府助成や財団資金に頼らず、月毎の委嘱作品から制作される限定版プリント・スクリーンエディションの販売(£100の小型版から£6000を超えるラージフォーマットまで)と、年次のCIRCA PRIZEで作家と若手公募を回す。2025年のCIRCA PRIZE では、テーマ「REFUGIA」のもとに公募が行われ、審査員にはBjörk、Hans Ulrich Obrist、Edward Enninful、Michèle Lamy、Norman Rosenthal、Catherine Wood、Ebony L. Haynes、Alvaro Barrington、Nicoletta Fiorucci、そして創設者のJosef O'Connorが並んだ。受賞者には£30,000の現金賞に加え、2027年にピカデリー・ライツとグローバルネットワークでの大型コミッションが約束され、別途£10,000の Public Vote Prize がオンライン投票で選ばれた。

過去六年の月替わり放映を見渡すと、現代美術の主要作家がほぼ一巡したことに気づく。Marina Abramović、Yoko Ono、Olafur Eliasson《Lifeworld》、Frank Bowling、Simon Fujiwara、Agnes Denes、Arca、Laurie Anderson、Pussy Riot、ダライ・ラマ14世、Danielle Brathwaite-Shirley、そして2026年現在放映中のMichelangelo Pistoletto《Three Mirrors》。商業ギャラリー、公的美術館、フェスティバルといった既存の発表回路を一切経由せず、街路の広告面だけで継続的に発表が成立する作家リストとしては、世界的に類例がない。

このリストには、Patti Smithの詩の朗読、Laurie Andersonのナラティブ、Arcaのサウンド、Tony Cokesのテキスト×音声——映像だけでは作品が立ち上がらない作家が、相当数含まれている。屋外大型サイネージは条例や雑踏の中で音を出せないのが常識だが、CIRCAは2021年1月のPatti Smithの月から、観客が現地で circa.art をスマートフォンで開くとヘッドホン経由で放映映像と同期した音声が再生される、という二層配信を組み込んだ。スクリーンには映像、観客の耳元には音声。DOOHが「映像のメディア」であるという前提を、観客の耳の側で書き換える小さな発明である——「1作品 × 多都市同期」を組むCIRCAに対し、「多作品 × 多venue × 多音声」をどう設計しうるか、SCAや都市単位の配信を構想するときの参照点でもある。

Times Square Midnight Moment との対照

2026年4月から放映の拠点に加わったミラノ大聖堂前のスクリーン。CIRCAは2026年、ミラノに五面、ローマに七面を新規に確保した。
fig.0032026年4月から放映の拠点に加わったミラノ大聖堂前のスクリーン。CIRCAは2026年、ミラノに五面、ローマに七面を新規に確保した。The screen facing Milan Cathedral, added to the CIRCA network in April 2026. The same year saw five screens in Milan and seven in Rome join the rotation.Photo: © CIRCAsource

CIRCAの仕組みを正しく位置づけるために、しばしば併置されるのが、ニューヨークの Times Square Midnight Moment である。Midnight Moment は1968年に当時のタイムズスクエア改良地区の試みとして始まり、現在の形になったのは2012年、Times Square Advertising Coalition と Times Square Arts の協働によってだった。月替わりの作品を、タイムズスクエア内の参加スクリーン九十二面が、毎晩23時57分から24時00分までの三分間、同期して映す。1月に始まり12月で一周する、ニューヨーク単独都市の「単一クラスタ同期」である。

両者は表面的にはよく似ている。月替わり、三分前後、同期放映、商業画面の一時占有。しかし二つの仕掛けの構造は、実は対極にある。Midnight Moment は単一都市内の九十二面が秒単位で揃って点灯するという、空間的な厚みを使った演出である。ニューヨークの夜にタイムズスクエアを訪れる観光客が、自分の真上で広告面が一斉にひとつの映像へと切り替わる瞬間を体験する。その三分間は、都市広告クラスタが自らに与える「社会的免許状」として機能している——毎晩三分だけは商業でないものを通すという譲歩によって、残り二十三時間五十七分の商業占有が地域社会から黙認される。

CIRCAは、これに対して、空間的な厚みではなく時間的な反復を使う。各都市の20時26分は、同一の時刻ではない。ロンドンの20時26分は、ニューヨークでは15時26分、東京では翌日の早朝5時26分、ソウルでは04時26分にあたる。十都市の20時26分は、絶対時間軸の上では、一日のうち最大二十四時間にわたって、ずらされたタイミングで起こる。視聴者は同じ作品を見るが、同じ瞬間を共有しているわけではない。Midnight Moment が「都市の空に同時に一枚の絵を貼る」とすれば、CIRCAは「地球上を一日かけて作品が一周する」のである。

この差は、両者を「競合する仕組み」ではなく「重畳した仕組み」として見ることでより鮮明になる。実際、タイムズスクエアはCIRCAのグローバルネットワークの一拠点として参加しており、月によってはCIRCAの作品がMidnight Moment の月替わり作品とは別枠で、20時26分に同じ街区のスクリーン群で放映される。この街区では、一日に二度、ひとつは都市の「社会的免許」として、もうひとつは惑星の「文化的同期信号」として、広告面が短時間だけ譲られている。

20時26分の点景

ピカデリー・サーカスでHockneyの朝日を見上げた市民が証言するのは、その三分間の前後で、いつもの広告のサイクルがほとんど変わらないということだ。CIRCAは商業画面を「乗っ取る」のではない。広告と広告の間に、わずかな空隙を開けるだけである。20時25分まで売られていた画面が、20時26分の三分間だけ、別の論理に明け渡される。20時29分が来れば、何事もなかったように商業のシーケンスが戻ってくる。

この運用には、街にアートを「常駐させる」ことへの戦略的な抵抗が含まれている。商業OOHの圧倒的な物理量と経済力の前で、文化が永続的な占有を試みることは、量においても費用においても勝ち目がない。CIRCAが選んだのは、商業の時間軸の中に固定の「間」を開けるという発明である。三分という短さは、商業面の運用上、ほぼ無視できる損失である。だからこそ、ピカデリー・ライツのオペレーターも、タイムズスクエアの広告連合体も、それを譲り渡せる。短い不在こそが、長い継続を可能にしている。

「間」と「点景」という対概念で考えると、CIRCAの設計の輪郭がはっきりする。商業面の24時間連続のシーケンスに、三分間の「間」が空けられる。その空けられた場所に立ち上がるのが、月替わりの一つの作品——すなわち「点景」である。点景は空間を占有しない。それは、ある時刻に都市の風景の中にぽつりと現れ、しばらく振る舞い、また消えていく。山水画の舟や旅人がそうであるように、風景の主役ではなく、風景に時間と方角を与える小さな印として置かれる。CIRCAは、この古い空間美学の論理を、惑星規模のスクリーン網に翻訳したものとして読むことができる。

最後に、もう一段の射程を書き留めておきたい。CIRCAが提示しているのは、「キュレーションされたコンテンツ」と「広域配信ネットワーク」を、別々の組織が担うのではなく一つの主体が貫通させるという、配信の組み立て方そのものである。レーベルと配信パイプラインを切り離さず、同じ編集主体が上流と下流を同時に握る。世界のサイネージ網を、広告枠の集合ではなく、編集判断の到達点として扱えるかどうか。CIRCAが2020年からの六年で実証しつつあるのは、その問いに対する一つの工学的な解である。

20時26分。ピカデリー・サーカスから、地球を一周しながら、毎晩三分間の点景が点っていく。

出典

  1. fig.001David Hockney, Remember you cannot look at the sun or death for very long | CIRCA 20:21(2021-05)
  2. fig.002David Hockney — Tokyo (Yunika Vision) documentation | CIRCA(2021-05)
  3. fig.003CIRCA — Milan / Rome network expansion (2026)(2026-04)
  4. [4]CIRCA — About
  5. [5]CIRCA — Artists Archive
  6. [6]CIRCA (art platform) — Wikipedia
  7. [7]Press Release: Björk Launches CIRCA PRIZE 2025(2025-05-01)
  8. [8]CIRCA PRIZE 2025 — Terms & Conditions
  9. [9]Times Square Arts — Midnight Moment
  10. [10]CIRCA Commissions Global Digital Artwork by David Hockney — Times Square Arts(2021-05)
  11. [11]Punk poet Patti Smith is taking over Piccadilly Circus — Time Out (note: "listen along" via circa.art on a phone, headphones recommended)(2021-01)

運用カルテ

運営主体
CIRCA(ロンドン。創設者 Josef O’Connor)
掲出地
ロンドン、ニューヨーク、東京、ソウル、ミラノ、メルボルン、ロサンゼルス、ラゴス、ヨハネスブルク
編成モデル
非営利ネットワーク — 各都市の媒体オペレーター(Landsec 等)との協定で毎晩の広告枠を確保
作家への対価
委嘱作品の限定版プリント/スクリーンエディション販売で自走。CIRCA PRIZE は賞金£30,000+委嘱、Public Vote Prize £10,000
稼働リズム
毎晩、現地時間20時26分から約3分。放映時刻は年に追従(2026年=20:26)。作家は月替わり
物理仕様
公表ベースで10都市・20数面(ピカデリー・ライツ、タイムズスクエア、COEX、ユニカビジョン他)
運用開始
2020-10
稼働状態
稼働中

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