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広場の物理形式は年ごとに変わる — 恵比寿映像祭の屋外プログラムと時限的シビックスクリーン

The Shape of the Square Changes Each Year: Yebizo's Outdoor Program as a Temporary Civic Screen

No.
106
種別
事例
著者
SCREENS LANDSCAPE 編集部
日付
読了
13分

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2026年2月、恵比寿ガーデンプレイスのセンター広場には、4m級のLEDウォールが一基だけ立っていた。閉じた目で互いに正対する二つの顔のモニター映像が、絡まり合うケーブルとともに、キスを交わすかのように現れる。エキソニモ《Kiss, or Dual Monitors 2026》。原型は2017年、ニューヨーク・ブルックリンでのパブリックプロダクションとして発表された作品で、宙吊りにされた二つのモニターが向かい合うインスタレーションだった。それが九年後の冬、東京の商業広場で、ケーブルの海へと沈み込んだ巨大スクリーンへと姿を変えていた。LED機材はX Vision Inc.、構造設計はGraph Studioの福島佳浩、空間設計はQAI、技術支援はarsaffix Inc.。同時期に東京都写真美術館の二階ロビーには、来場者が自分の顔で参加できる撮影ブースが併設されていた。10時から20時まで、最終日は18時まで、二月の月曜日は休み、料金は無料。

fig.001エキソニモ《Kiss, or Dual Monitors 2026》— 第18回恵比寿映像祭、ガーデンプレイス センター広場(2026年2月)。LED機材はX Vision Inc.、構造設計はGraph Studio、空間設計はQAI、技術支援はarsaffix Inc.Exonemo, Kiss, or Dual Monitors 2026 — 18th Yebizo, Ebisu Garden Place Center Square (Feb 2026). LED hardware: X Vision Inc.; structural design: Graph Studio; spatial design: QAI; technical support: arsaffix Inc.© Exonemosource

十八年の系譜

恵比寿映像祭(Yebisu International Festival for Art & Alternative Visions、通称Yebizo)は2009年に第一回が開催され、2026年で第十八回を数える。主催は東京都・東京都歴史文化財団・東京都写真美術館(TOP MUSEUM)・Arts Council Tokyoの四者編成。会場は写真美術館を本拠としつつ、恵比寿ガーデンプレイスの屋外空間(センター広場・スカイウォーク・時計広場ほか)、日仏会館、ザ・ガーデンルーム、地域連携拠点を含む多拠点で構成される。コロナ禍に入った2020年第十二回以降も中断なく毎年二月の二〜三週間の会期を続けてきたフェスティバルとしては、国内でも稀少な部類に入る。

近年のテーマだけを並べておく。2018年「インビジブル」、2019年「トランスポジション/転置する」、2020年「時間の想像」、2021年「映像の気持ち / E-MOTION GRAPHICS」、2022年「スペクトラル・ヴィジョンズ:遠視のリアリティ」、2023年「テクノロジー?」、2024年「月へ行く30の方法」、2025年「ドキュメンタリー」、2026年「あなたの音に|日花聲音|Polyphonic Voices Bathed in Sunlight」。テーマ年表それ自体に、映像メディアの自己定義をフェスティバルが毎年読み替え続けてきた跡が残っている。

四者編成の外側には、もう一つの公的アクターが連年で組み込まれていた時期がある。CCBT(Civic Creative Base Tokyo)である。2023年と2024年、CCBTは屋外プログラムの中心プロジェクトに連携枠として共催的に参画した(本稿の後半で具体的な作品を見る)。公共主体の編成のなかで、センター広場の屋外プログラムがどう運用されてきたかを、ここから順に見ていく。

広場の物理形式は年ごとに変わる

センター広場で過去五年に実装されてきた屋外作品を、そのメディア形式に注目して並べ直すと、奇妙な傾向が浮かび上がる。同じ広場が、同じスクリーンを使い続けていないのだ。

2022年、スタジオWOWが「モーション・モダリティ / レイヤー」を発表した。東京・仙台・ロンドン拠点のビジュアルデザインスタジオによる、来訪者全員が体験可能な屋外映像作品である。

野老朝雄+平本知樹+井口皓太《FORMING SPHERES》— 第15回恵比寿映像祭「テクノロジー?」、ガーデンプレイス センター広場(2023年2月)。組亀甲紋を3Dに展開した球体群を、ライトで照らし上げる立体インスタレーション。CCBT アート・インキュベーション・プログラム連携。
fig.002野老朝雄+平本知樹+井口皓太《FORMING SPHERES》— 第15回恵比寿映像祭「テクノロジー?」、ガーデンプレイス センター広場(2023年2月)。組亀甲紋を3Dに展開した球体群を、ライトで照らし上げる立体インスタレーション。CCBT アート・インキュベーション・プログラム連携。Asao Tokoro + Tomoki Hiramoto + Kota Iguchi, FORMING SPHERES — 15th Yebizo, Ebisu Garden Place Center Square (Feb 2023). 3D-printed kumi-kikkō-mon spheres lit from within. In collaboration with CCBT Art Incubation.© 野老朝雄 + 平本知樹 + 井口皓太 / 恵比寿映像祭 / 東京都写真美術館source

翌2023年、第十五回「テクノロジー?」の屋外プログラムは大きく姿を変える。野老朝雄・平本知樹・井口皓太の三人による《FORMING SPHERES》が、センター広場に立ち上がった。野老の代表的紋様である組亀甲紋を三次元に展開した3Dプリント球体群を、ライトで照らし上げる立体インスタレーション。三人は東京2020オリンピック開会式のドローン演出チームとしても知られ、野老は同大会のエンブレム作者でもある。本作はCCBTのアート・インキュベーション・プログラム連携で制作され、プロトタイプはCCBTで先行公開されていた。広場の屋外実装は、LED映像から立体彫刻×光照射へと一気に振れた。

2024年第十六回「月へ行く30の方法」では、再びLED大画面に戻る。約4mのスクリーンを「公共映像のフォーラム」として運用した《Poems in Code: Generative Art Today and Programming-Generated Moving Image》である。プロジェクトはCCBTとの連年連携の二年目で、共同統括にはSeo Hyojung(韓国)とTakawo Shunsuke(日本)の二人が立った。共同出品作家は12名(Alexis André、Joshua Davis、Saeko Ehara、eziraros、Fingacode、Zach Lieberman、mole cubed、Casey Reas、Alida Sun、Takawo Shunsuke、Yazid、Seo Hyojung)、これに加えてFuture Ideations Camp参加者23名のジェネラティブ作品が連続上映された。フェスティバル × CCBT × 二国籍キュレーター共同統括という三層編成は、レーベル機能と配信機能を一つの主体が貫通させる形式として、本誌『20時26分の三分間 — CIRCA とグローバル同期スクリーン網』で論じたCIRCAと並べて読むに値する。

fig.003《Poems in Code: Generative Art Today and Programming-Generated Moving Image》— 第16回恵比寿映像祭「月へ行く30の方法」、ガーデンプレイス センター広場(2024年2月)。共同統括 Seo Hyojung × Takawo Shunsuke、出品12名 + Future Ideations Camp 23名。CCBT 連携の二年目。Poems in Code: Generative Art Today and Programming-Generated Moving Image — 16th Yebizo, Ebisu Garden Place Center Square (Feb 2024). Co-curated by Seo Hyojung × Takawo Shunsuke, with 12 artists plus 23 Future Ideations Camp participants. The second year of CCBT's collaboration.© Yebizo / CCBT / 出品作家source

そして2026年、《Kiss, or Dual Monitors 2026》は、LEDに戻りつつも来場者参加型の撮影ブースを写真美術館本館に併設するというハイブリッドへと進む。屋外LED + 屋内ブースという二地点の編成は、過去年のセンター広場の運用にはなかった形式である。

並べてみれば、2022年のモーション映像 → 2023年の立体×光 → 2024年のLED大画面 + ジェネラティブ群 → 2026年のLED + 来場者参加ブースという系列が見える。同じ広場が、毎年違う物理形式で立ち上がっている。これを単なる偶然や予算事情として片付けてしまうのは惜しい。物理形式を年単位でスイッチし続けるという運用そのものが、Yebizoの屋外プログラムの編集判断のように見えるからだ。「広場で何を見せるか」よりも「広場をどんなスクリーンとして立ち上げるか」が、毎年改めて選び直されている。

その結果、恵比寿ガーデンプレイスのセンター広場は、固定された物理装置としてのスクリーンというよりも、年に一度、二〜三週間だけ立ち上がる仮設の編集装置として機能している。商業空間が所有する常設物理面ではなく、フェスティバルが会期中だけ召喚する時限的な物理面。

広場と動線 — 2026年に分離した二モード

2026年のYebizoには、もう一つ静かな編成上の刻みがあった。屋外プログラムが、センター広場とは別に、恵比寿スカイウォーク(JR恵比寿駅と恵比寿ガーデンプレイスを結ぶ動線)と東京都写真美術館の外壁にまで広がったことである。

そこに掛けられたのは、台湾出身のYu Cheng-taによるFAMEME《Duri-Grance》だった。FAMEMEは個人と集団のアイデンティティを横断するパフォーマンス的人格で、Yu自身が長年運用してきたキャラクター/プロジェクトでもある。本作のコンセプトは「もしドリアンが香水になったら」。ドリアン香水の広告ビジュアル連作として、屋外動線と美術館外壁にポスター系の掲出物が並ぶ。アートディレクションとグラフィックデザインは河野美彩、撮影は平田正和、レタッチは吉岡尚人、メイクは松本望、制作管理は三上麻里子。これらのクレジットは、現代美術のグループ展というよりも、商業ファッション撮影のクレジットに近い構造を持っている。

FAMEME《Duri-Grance》(Yu Cheng-ta)— 恵比寿スカイウォーク、東京都写真美術館外壁ほか(2026年2月)。屋外動線と美術館ファサードに「ドリアン香水の広告ビジュアル」連作として掲出された。
fig.004FAMEME《Duri-Grance》(Yu Cheng-ta)— 恵比寿スカイウォーク、東京都写真美術館外壁ほか(2026年2月)。屋外動線と美術館ファサードに「ドリアン香水の広告ビジュアル」連作として掲出された。FAMEME, Duri-Grance (Yu Cheng-ta) — Ebisu Sky Walk and TOP MUSEUM facade (Feb 2026). A serialized 'durian perfume ad campaign' deployed across an outdoor pedestrian corridor and a museum facade.© FAMEME (Yu Cheng-ta) / 恵比寿映像祭 / 東京都写真美術館source

スカイウォークは、ガーデンプレイスへの動線として、商業広告枠と地続きの空間である。そこに「広告擬態」と呼ぶしかないアートワークを混入させる判断は、Yebizoの屋外プログラムが過去には強くは扱ってこなかった文脈の選び直しに見える。これまでセンター広場で行ってきた「広告サイクルを止めてLEDを譲り渡す」というモードに対し、スカイウォークでは「広告のフォーマットそのものを擬態しながら、その内側を作品で書き換える」モードが採用されている。Center Square = LEDウォール、Sky Walk = ポスター擬態。恵比寿という街区の二つの面が、二つの異なる屋外モードで使い分けられた。

この二モードの分離は、その前年の編成と読み比べることで、より輪郭がはっきりする。2025年第十七回「ドキュメンタリー」では、Tony Cokesが三作品を写真美術館館内外と恵比寿ガーデンプレイス各所に分散展開した。《The Queen is Dead ... Fragment》(2019、アレサ・フランクリン追悼)、《Free Britney?》(2022、ブリトニー・スピアーズの法廷闘争)、《Evil.66.2》(2016、2016年米大統領選関連)。コークスの方法論は、テキスト、音楽、映像の断片を組み合わせて画面の言語的占有を作り出すことにある。それを商業空間に直接持ち込むキュレーションは、屋外スクリーンを「映像装置」としてではなく「公共空間における言語の占有装置」として使う実装に近い。2025年は屋外プログラムの「拡張」がコークスの三作品分散という形でなされ、2026年はそれが「広場」と「動線」という空間タイプの分離として明示化された——そう読むこともできる。

時限的シビックスクリーンとして

ここまで見てきたYebizo屋外プログラムの設計を、商業空間とアートの関係という観点でひと言にすれば、時限的シビックスクリーン化である。恵比寿ガーデンプレイスというデベロッパー所有の商業空間が、年に一度の二〜三週間だけ、アートのフォーラムへと姿を変える。広場のスクリーン、動線のポスター枠、美術館の外壁。それらは平時には商業オペレーションの一部か美術館の外形であり、Yebizoの会期だけ意味の運用が切り替わる。

この仕組みは、本誌で先に論じたCIRCAの設計と、よく似ているが対称ではない。CIRCAはピカデリー・サーカスをはじめとする世界十以上の都市の商業スクリーンに対して、毎晩三分間という時間軸の「間」を開ける。商業の二十四時間連続のシーケンスから、毎晩同じ時刻に三分だけ別の論理に明け渡される。Yebizoが開ける「間」は、時間軸ではなく会期である。一年三百六十五日のうち、二〜三週間だけ商業空間が別の運用に明け渡される。CIRCAが毎日繰り返す短い不在によって長い継続を可能にするのに対し、Yebizoは年に一度の長い不在によって、その一回ごとの濃度を上げている。

この対比を踏まえると、Yebizoの屋外プログラムが毎年物理形式を変えていく運用の意味が、別の角度から見えてくる。短い不在を毎日反復するCIRCAは、規格化と同期によって惑星規模の編成を成立させる必要がある。三分間という枠と二十時何分という時刻と月替わりというサイクルは、その規格化の核心である。一方、年に一度の長い不在を運用するYebizoは、毎年同じ物理形式を反復する必要がない。むしろ毎年違う物理形式を持ち込めるほうが、その「不在」の意味が更新される。LED、立体彫刻、モーション映像、ポスター擬態——形式のスイッチが、フェスティバル自身の自己更新の仕掛けになっている。

「間(MA)」と「点景(TENKEI)」という対概念で考えると、設計の骨格がいっそうはっきりする。Yebizoは恵比寿ガーデンプレイスの商業時間軸のなかに、二〜三週間という「間」を開ける。広場の物理形式を毎年作り直すことによって、その間にどんな器を立てるかも年ごとに選び直される。そして開かれた間と立ち上げられた器のなかに、作品が一つの「点景」として置かれる。山水画の旅人や舟と同じように、風景の主役ではなく、風景に時間と方角を与える小さな印として。エキソニモのケーブルの海、野老の組亀甲紋の球体、Poems in Codeの12人の生成的作家たち、FAMEMEの広告擬態。それぞれは点景としてしか機能しないが、そう機能することによって、恵比寿という商業の風景に、毎年違う光の差し方を残していく。

視点を引き上げれば、Yebizoの屋外プログラムが行っているのは、物理ハードウェアを所有しない編成主体(東京都写真美術館・CCBT・歴史文化財団)が、所有しているプレイヤー(恵比寿ガーデンプレイス・機材ベンダーのX Vision Inc. など)と編成上の関係を結び、コンテンツと配信を一つの主体が貫通させる、という運用である。レーベル機能(年ごとのテーマと作家選定)と配信機能(屋外スクリーンへの実装)が、同じ手のなかで握られている。本誌で先に論じたCIRCAが、商業の時間軸に毎晩三分間の「間」を開けて惑星規模の編集を成立させていたとすれば、Yebizoは、年に一度の会期という長い「間」を恵比寿という一都市の街区にだけ開けるという、対照的な実装解を示している。

二月の二〜三週間、恵比寿ガーデンプレイスの広場と動線と外壁に、形式を変えながら点景が点いていく。次は2027年の冬になるだろう。広場の物理形式が、また別のなにかへ変わっているはずである。

出典

  1. fig.001Kiss, or Dual Monitors 2026 by exonemo(YouTube 公式映像)(2026-02)
  2. [2]エキソニモ《Kiss, or Dual Monitors 2026》— 第18回恵比寿映像祭 公式プログラム(2026-02)
  3. fig.002《FORMING SPHERES》— 第15回恵比寿映像祭 公式プログラム(2023-02)
  4. fig.003Poems in Code: Generative Art Today and Programming-Generated Moving Image(YouTube 記録映像)(2024-02)
  5. [5]CCBT — Poems in Code: Generative Art Today and Programming-Generated Moving Image(2024-02)
  6. fig.004FAMEME《Duri-Grance》(Yu Cheng-ta)— 第18回恵比寿映像祭 公式プログラム(2026-02)
  7. [7]恵比寿映像祭 公式(現行回)
  8. [8]恵比寿映像祭 プログラムアーカイブ一覧
  9. [9]東京都写真美術館 TOP MUSEUM
  10. [10]東京都歴史文化財団
  11. [11]CCBT — Civic Creative Base Tokyo
  12. [12]Arts Council Tokyo
  13. [13]美術手帖 — 第18回恵比寿映像祭 開幕レポート(2026)(2026-02)
  14. [14]Tokyo Art Beat — Yebizo 2026 TOP MUSEUM レポート(2026-02)
  15. [15]Tokyo Art Beat — 第17回恵比寿映像祭「ドキュメンタリー」見どころレポート(2025)(2025-01)
  16. [16]Tokyo Art Beat — Yebisu International Festival 2024 "30 Ways to Go to the Moon"(2024-02)
  17. [17]恵比寿映像祭 2023《FORMING SPHERES》公式プログラム(2023-02)
  18. [18]CCBT — FORMING SPHERES プロトタイプ公開(2022)
  19. [19]美術手帖 — 恵比寿映像祭 2023「テクノロジー?」レポート(2023-02)
  20. [20]WOW — 公式サイト(2022 出品スタジオ)

運用カルテ

運営主体
東京都・東京都歴史文化財団・東京都写真美術館・Arts Council Tokyo の四者(CCBT が屋外中心企画に連携)
掲出地
東京
編成モデル
フェスティバル編成 — 商業空間(恵比寿ガーデンプレイス)を会期中のみシビックスクリーン化。広場の物理形式を毎年変える
稼働リズム
毎年2月に2〜3週間。2009年から中断なく継続(2026年で第18回)
物理仕様
センター広場・スカイウォーク・美術館ロビーほか複数会場。形式は年ごとに更新
運用開始
2009
稼働状態
稼働中

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