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「アートビジョン」という名の広告面 — SHIBUYA TSUTAYA(QFRONT)、スクランブル交差点の器

A Screen Named 'Art Vision': SHIBUYA TSUTAYA (QFRONT), a Vessel at the Scramble Crossing

No.
162
種別
事例
著者
SCREENS LANDSCAPE 編集部
日付
読了
11分

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渋谷駅のハチ公口を出て、スクランブル交差点に立つ。正面にそびえる透明な躯体のビルには、上から下まで映像が流れている。この建物は、世界でもっとも撮影される交差点の背景であり続けてきた。名前を QFRONT という。そのファサードに組み込まれた街頭ビジョンには、二つの名前がついている。中央の「メインビジョン」と、それを取り囲む「アートビジョン」。だが、そこに一日中流れているものの大半は、商品であり、ロゴであり、映画の予告であって、「アート」ではない。交差点の顔に据えられた、アートと名づけられた広告面——この器のありようを見ていくと、街の風景に映像が立ち上がるとはどういうことか、という問いにまっすぐ突き当たる。

fig.0012024年4月、24年ぶりの全面リニューアルを伝える報道。スクランブル交差点に面したQFRONTのファサードとともに、レンタル店からIP拠点への転換が紹介された。April 2024 news coverage of the building's first full renovation in 24 years, showing QFRONT's facade at the scramble crossing as the store pivoted from a rental shop to an IP hub.© ANNnewsCH(テレビ朝日)source

「不在建築」の画面

QFRONT が開業したのは1999年12月。設計は RIA(株式会社アール・アイ・エー)、地上8階地下3階、延床面積は約6,838平方メートルの建物である。設計時に掲げられたコンセプトは「不在建築」と呼ばれた。躯体そのものの造形を主張するのではなく、透明・半透明のファサードに映像とサインを載せることで、建物が自身の輪郭を消し、映る像だけを立ち上がらせる——外壁がそのまま画面になる建築である。

この考え方は、渋谷という場所と分かちがたい。スクランブル交差点は、信号が変わるたびに四方から人が流れ込み、数十秒で解ける群衆をつくる。そこに面した建物は、立ち止まらない人々の視界を一瞬だけ占める掲示面として機能する。QFRONT の透明な躯体は、その条件に合わせて「見られる面」を最大化するために設計された。ビル自体が主役になるのではなく、そこに映るものの容れ物になる。建物が器であるという言い方が、これほど文字どおりに当てはまる例も珍しい。

開業当初、この建物には旗艦店の SHIBUYA TSUTAYA が地下2階から4階に入り、上階には映画館「シネフロント」やイベントスペースが同居していた。レンタルビデオ・CD の巨大な棚が交差点の角に立つという構図は、映像と音楽をパッケージで所有していた時代の渋谷を象徴していた。器の中身は、四半世紀のあいだに大きく入れ替わることになる。

「アートビジョン」と呼ばれる広告面

ファサードの街頭ビジョンは「Q'S EYE(キューズアイ)」と名づけられ、双面カーテンウォールのあいだに組み込まれている。1999年の設置、2005年の更新を経て、現在の姿になったのは2013年だ。この更新で、中央の「メインビジョン」(横13メートル×縦7.7メートル、16:9、HD画質、9.5ミリピッチ)を、より粗い29.4ミリピッチの「アートビジョン」(横19メートル×縦23.9メートル)が取り囲む二層構成となった。二つは同期させて約1200インチ相当の一枚の巨大画面として運用でき、施工と運用はヒビノが担っている。2020年には、建物上部の約40メートルの高さに、透明LEDを用いた「Shibuya ICONIC Vision」が加わった。

装置としての作りは、明らかに映像表現の幅を意識している。中央を高精細に、周縁を粗くという構成は、細部を見せる面と、環境的に色を広げる面とを役割分担させる設計だ。だからこそ、外側の大面積のディスプレイに「アートビジョン」という名がついている。名前は、この面が広告以外の——環境映像や、抽象的な色面や、作品的な映像を映しうる場所であることを、あらかじめ宣言している。

fig.002「レンタル」を無くして大変貌する、と報じられた2024年のリニューアル。交差点に面した器の中身が、所有から体験へと切り替わっていく。The 2024 renovation, reported as a dramatic transformation that did away with rentals — the contents of the crossing-facing vessel shifting from ownership to experience.© TBS NEWS DIG Powered by JNNsource

しかし、名前が用意している余白と、実際にそこを流れるものとのあいだには距離がある。営業時間の9時から24時まで、この面を占めているのは、そのほとんどが広告と番組宣伝であって、作品として編集された映像ではない。「アートビジョン」は、アートを流すために作られたのではなく、アートを流すこともできる広告面として作られた。この命名のずれこそが、渋谷の街頭ビジョンという器のもっとも正直な自己申告だと言える。街の風景のなかに用意された「作品がありうる場所」は、たいていの時間、商業で満たされている。

レンタルからIPへ——器の中身が入れ替わる

2023年10月30日、QFRONT は一旦閉館する。半年の改装を経て、2024年4月25日に SHIBUYA TSUTAYA として全面リニューアル開業した。新しい旗艦店が掲げたスローガンは明快だ。

好きなもので、世界をつくれ。

カルチュア・コンビニエンス・クラブsource

レンタルサービスは姿を消し、建物はアニメ・ゲーム・音楽・ブランドといった IP(知的財産)の体験拠点へと編成し直された。新しいロゴは、日本デザインセンターの原研哉が手がけている。「T」の字を、これから何でも描き込める白いキャンバスに見立てたこのシンボルは、店そのものが特定の中身を持たず、次々に入れ替わる IP の容れ物であることを図案化している。器を器として掲げるブランディングだ。

象徴的なのは、館内が「SIPS(SHIBUYA IP SQUARE)」という装置群として再設計されたことである。スクランブル交差点に面した1階の SIPS A には、屋外エントランスの LED ビジョンに加えて3面の屋内 LED ビジョンが据えられ、世界の IP の世界観を大画面で体感させる。地下鉄とつながる地下1階の SIPS B は、公式の説明によれば「美術館で使用されている美術展示什器」を用いた没入的な空間としてつくられ、作家・クリエイターの展示や物販が入れ替わりで行われる。2階のスターバックスには、横35メートルにわたる曲面のデジタル映像壁が設けられた。

fig.003リニューアル開業を伝えるプレス映像。館内は特定の中身を持たず、IPを次々に迎え入れる容れ物として設計されている。Press footage of the reopening; the interior is designed as a vessel holding no fixed content, welcoming one IP after another.PR TIMES TVsource

ここで起きているのは、商業空間の美術館化と呼べる操作である。美術館の展示什器を商業施設の地下に持ち込み、店内の壁を映像作品のように扱い、フロアを「体験」の連なりとして編集する。所有(レンタル)から体験へという転換は、しばしば消費のかたちの変化として語られるが、器の側から見れば、それは商業施設が展示施設の語彙を取り込んでいく過程でもある。街を美術館として読み替える動きが、公共やアートの側からだけでなく、商業の側からも進んでいる——渋谷の交差点に立つこの器は、その両側からの接近が交わる場所にある。

交差点の器に、点景は立つか

とはいえ、装置が美術館の語彙をまとい、面に「アート」の名がついているからといって、そこに点景が立ち上がるとは限らない。TENKEI が事例を測るときの基準は一つだ——街の風景のなかに、意味を点す小さな現れがあるか。山水画の人物や舟のように、風景に命を与える一点が生じているか。

その基準で見れば、渋谷のスクランブル交差点は、都市のなかでもっとも手強い場所の一つである。四方の壁面がほぼすべて広告面で、視覚はすでに飽和している。ここでは、映像が流れていること自体は何の出来事でもない。流れていないことのほうが例外だ。だからこそ、この交差点で点景が立つのは、器の面が一瞬だけ別のものに明け渡される、その切れ目においてである。すぐ近くの新宿東口の猫が、毎正時に広告の連続を断ち切って一頭の生き物を点すように。あるいは渋谷の街頭ビジョン群を横断してアート映像を編成するNEO SHIBUYA TVが、掲出の合間に別の時間を差し込むように。ロンドンで100年以上広告を掲げ続けてきたピカデリー・ライツが、日に一度だけ作品のための時間を空けるように。

QFRONT の「アートビジョン」は、まだその切れ目を制度として持っていない。面の名前は用意されているが、その名にふさわしい時間が定時で確保されているわけではない。ここにあるのは、可能性としての器だ。約1200インチの高精細な面と、それを取り囲む大面積のディスプレイという物理は、作品を受け止めるだけの解像度と規模をすでに備えている。欠けているのは装置ではなく、その面の時間をいつ、誰のために空けるか、という編集の判断である。

近くの西武渋谷店の壁面が長い年月をかけて一つの作品を街に定着させたように、商業施設が自らの面の一部を作品のために空ける判断は、渋谷でも決して前例のないものではない。器はすでに立っている。問われているのは中身だ。間(MA)——面に設けられた時間の空白——を、この交差点はどれだけ差し出せるか。そこに何を点すか。「アートビジョン」という名が、いつか報告ではなく約束になる日が来るとすれば、それはこの器が広告で満たされた自らの時間を、わずかでも作品に譲り渡すと決めたときだろう。世界でもっとも撮影される交差点の顔に、点景がひとつ立ち上がる——その光景を、まだ私たちは待っている。

出典

  1. fig.001渋谷TSUTAYAが24年ぶりにリニューアル IPコンテンツの拠点に(2024年4月24日) — ANNnewsCH
  2. fig.002リニューアル 渋谷の「TSUTAYA」があす(25日)オープン 「レンタル」無くして大変貌 — TBS NEWS DIG
  3. fig.003渋谷スクランブル交差点に新聖地 生まれ変わったシブツタ、4/25オープン — PR TIMES TV
  4. [4]好きなもので、世界をつくれ。『SHIBUYA TSUTAYA』 — CCC カルチュア・コンビニエンス・クラブ
  5. [5]世界中のIPで好きをつくるフロア「SIPS / SHIBUYA IP SQUARE」 — SHIBUYA TSUTAYA 公式
  6. [6]「SHIBUYA TSUTAYA」誕生 渋谷の新ランドマークはレンタルからIPへ — Impress Watch
  7. [7]QFRONT「渋谷ツタヤ」4月全面改装 カフェ・書店・屋上空間など — シブヤ経済新聞
  8. [8]渋谷QFRONTの大型ビジョンが刷新—大画面化、メーン画面はHD画質に — シブヤ経済新聞
  9. [9]渋谷スクランブル交差点の大型ビジョン「Q'S EYE」がリニューアル — AdverTimes
  10. [10]ヒビノ:「QFRONT」ビル壁面の大型ビジョン「Q'S EYE」に同社製LEDディスプレイ・システム「ChromaLED 9B」を納入 — 財経新聞
  11. [11]Q'S EYE — Shibuya Media Pedia
  12. [12]QFRONT — Wikipedia(日本語)

運用カルテ

運営主体
建物「QFRONT」に入居する旗艦店 SHIBUYA TSUTAYA の運営はカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)。ファサードの大型ビジョン「Q'S EYE」の運用・施工はヒビノが担う
掲出地
東京
編成モデル
企業文化事業 — 2024年のリニューアルで建物全体を IP コンテンツの体験・販促プラットフォーム「SIPS(SHIBUYA IP SQUARE)」として編成。ファサードのビジョンはヒビノが運用する商業広告媒体で、アートはあくまで商業編成のなかに随時あらわれる
稼働リズム
ファサードのビジョンは毎日9:00〜24:00稼働。建物は2023年10月30日に一旦閉館し、2024年4月25日に全面リニューアル開業した
物理仕様
双面カーテンウォールに組み込まれた街頭ビジョン「Q'S EYE」。2013年の更新で「メインビジョン」13m×7.7m(16:9・HD・9.5mmピッチ)を「アートビジョン」19m×23.9m(29.4mmピッチ)が囲む構成となり、両者を同期して約1200インチ相当の一枚として運用できる。建物はRIA設計、地上8階地下3階、1999年12月開業
運用開始
1999-12
稼働状態
稼働中

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