NEO SHIBUYA TV — 匿名のキュレーションを、参加作家の言及から辿る
NEO SHIBUYA TV: Tracing an Anonymous Curation Through Its Artists
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渋谷スクランブル交差点を中心に、 宇田川町から神南にかけて、 株式会社シブヤテレビジョンが運営する街頭ビジョンが九基ある。 加えて、 RAYARD MIYASHITA PARK 一階の渋谷横丁には、 同社が運営する小型サイネージが八十五面ある。 この合計九十四面で、 二〇一八年七月二十八日から、 広告枠に混じって三十秒前後の映像作品が放映されている。 プロジェクト名は NEO SHIBUYA TV。 主催は同社が公表しているが、 誰が編成しているかは現在も公開されていない。
本稿は、 この匿名のプロジェクトについて、 参加した作家と観客の言及を辿りながら輪郭を描く。 公開資料の限界に正直であるためであり、 作家と観客の側から見える NEO SHIBUYA TV を一次資料として扱うためでもある。
二〇一八年の起点
立ち上げは二〇一八年七月二十八日、 土曜日の朝九時。 ロゴ意匠は VERDY(「youth of today」シリーズ)と Ray Martinez(SPAGHETTI BOYS、 本体ロゴ)が担当した。 八月十二日からの第一弾には、 ベルリン在住の映像作家 Pedro Maia が起用されている。 並行する「youth of today」シリーズの初回は、 大阪のスケートチーム WASTED YOUTH SKATEBOARD の Issei Mori を追ったショートビデオだった。 立ち上げ時の編成は、 純粋な映像アートよりも ストリート・カルチャー寄り だったといってよい。
主力フォーマットは「30seconds museum」と呼ばれる。 OOH の標準広告枠が十五秒で、 一部の屋外大型サイネージが三十秒枠を取る。 「30seconds museum」はこの広告規格そのものに乗りつつ、 倍尺で「広告ではない」という弱いシグナルを物理仕様で出す設計になっている。 街頭ビジョンを 美術館に見立てる という見立てそのものは、 名前に明示的に書き込まれている。
公式アカウントの累計投稿数は二〇二六年五月時点で約四千七十三件。 開始から約七年で、 月平均五十件、 週十二件のペースで放映記録が積み上がっている。
編成は一本ではない
「30seconds museum」が NEO SHIBUYA TV の代名詞のように扱われがちだが、 公式 Instagram のストーリーハイライトを辿ると、 並走する別の編成チャンネルが複数ある。
二〇二〇年十月、 外部のキュレーション団体 @new_media_art(@form.language 並走)との提携が公式に発表された。 NMA 30sec と NMA 15sec という二系統が立ち上がり、 興味深いことに 十五秒版が二週間ほど先行している。 初回作家は Matt Heinzler。 翌二〇二一年からは、 Brooklyn の Superchief Gallery NFT との常設タイアップ「SC gallery」枠が走り、 Coby Kennedy らの作品が渋谷モディの大型 LED に流れた。 「invading」というハイライトには、 「NEO SHIBUYA TV is invading SHIBUYA」というスローガンが残されている。
つまり、 「30seconds museum」は NEO SHIBUYA TV 直営の最も長い系譜の一本 であり、 NMA 系・SC gallery 系を並べると、 編成は 最低四つのチャンネルの束 として動いている。 NEO SHIBUYA TV 本体は依然としてキュレーターを名乗らないが、 NMA 系では @new_media_art と @form.language が、 SC gallery 系では @superchiefgallerynft が 外部の協業相手 として明示的にクレジットされる。
作家の側から見た NEO SHIBUYA TV
NEO SHIBUYA TV について、 作家側がもっとも雄弁に語った媒体は、 二〇二四年公開の Yokogao Magazine 特集である。 編集側ではなく作家側が語る、 という構造を Yokogao は採用している。 そこから引かれる発言は、 プロジェクトを輪郭づける一次資料に近い。
To be honest, the first time they were brought to my attention was when they contacted me on
Instagram in October. They mentioned they had a copy of my book so that is how they became aware
of my work.
They are just as mysterious to me. I don't know a lot about them as a collective or their
background, or how/why they have access to these digital billboards.
— Seana Gavin, via Yokogao Magazinesource
I love their project and curating line. It's crazy, generous, and very audacious to show videos
of contemporary artists in the commercial billboard of Shibuya.
— Regina Demina, via Yokogao Magazinesource
We are in an age of screen addiction and I wanted to put Oxy on the largest screen overlooking
the people of Shibuya as many of them have their heads buried in their phones. Putting this
video on the phone, TV, and the ultimate screens of Tokyo that seem to watch us made the piece
full circle and a reflection of the times.
— Jeron Braxton, via Yokogao Magazinesource
発言を並べると、 プロジェクトの輪郭が間接的に立ち上がる。 第一に、 コンタクトは個別の DM ベース(Gavin)。 第二に、 編成主体は内側からも外側からも不可視のまま(Gavin)。 第三に、 商業 LED に同時代美術を載せる行為そのものが「audacious」と評される(Demina)。 第四に、 作家側はスクリーンの規模と通行量を意識して制作する(Braxton)。
Yokogao の取材外でも、 #neoshibuyatv のハッシュタグで作家本人の声を辿ることができる。 ある VFX 作家は自作が渋谷で放映された瞬間の感情をこう書く。
Ok this is WILD. My VFX montage is playing on a loop across 85 TVs in Shibuya, Tokyo, throughout
a bunch of bars, restaurants & public spaces. Special thanks to @neoshibuyatv for putting this
together! Arigatou!
— VFX artist self-celebration post, via Instagram #neoshibuyatvsource
別の作家は、 Bangkok で制作した新作の 東京プレミア会場 として NEO SHIBUYA TV を選び、 「so happy to premiere bits of my new project 'refreshments' on some big outdoor monitors in Tokyo, courtesy of @neoshibuyatv」と書いた。 cats.digital という制作チームは「to become a small part of amazing Tokyo」と書いた。 作家側の言語は一貫して、 NEO SHIBUYA TV への参加を 「東京の一部に組み込まれる」「東京で初めて出す」 という都市参加体験として認識している。
入口は三系統
Gavin のように Instagram の DM で連絡を受ける形が、 これまで取材で最もよく可視化されてきた入口である。 ただ NEO SHIBUYA TV の運営はそれだけではない。
公式 Instagram では「OPEN CALL VOL.1」という公募が実際に運用されている。 「Want to exhibit your art? Broadcast on 84 screens in Shibuya Yokocho... DM us your 30-second artwork. We will be accepting applications for 2 weeks from today. Winners will be announced after careful judging.」と告知され、 José Palacio のような公募経由の選出例も確認できる。
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Instagram で開くもう一つの入口は、 二〇二六年三月、 香港のアートコレクティブ Chamber Lab の事例で明示される。 同団体は渋谷で一週間のフラッシュ展示を行い、 八十七面以上の大型屋外スクリーンで上映し、 「self-initiated, realized with support from NEO Shibuya」と説明している。 編成主体が NEO SHIBUYA TV ではなく アーティスト集団側 で、 NEO SHIBUYA TV は媒体運営のサポート役に回るパターンが二〇二六年に観測されている。
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Instagram で開く入口は、 「キュレーター側からの個別 DM 声掛け」「公募への応募と審査」「作家主導の持ち込み + 媒体サポート」の三系統が並走している。 キュレーターの匿名性は維持されたまま、 入口の多様化が進んできた、 と整理できる。
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X (Twitter) で開く観客の側にも記録がある
二〇二二年二月、 一人の日本語話者がたまたま渋谷の街頭ビジョンで放映中の NFT ショーを見上げ、 こう書いた。
屋外ビジョンをじっくり見たのは初めてでしたが、
渋谷の街中に居ながら最先端アートシーンに触れる体験はエキサイティングだった…!!
こんな番組があったなんて。
— A spectator post in Japanese, via Instagram #neoshibuyatvsource
「こんな番組があったなんて」という驚きは、 キュレーターの非開示と表裏一体で成立している。 告知が公式 Instagram と X にしか出ないことが、 街路で偶然見上げた瞬間を「発見」に変える。 編成主体が前景化されないからこそ、 街と作品の関係だけが残る。
ある作家から別の作家への伝言には、 こうあった: 「they have programming for plenty of screens across Shibuya. perhaps you can have your art shown there too!」。 NEO SHIBUYA TV は、 作家のあいだを口コミで広がっていく経路も持っている。
同じ建屋の他の運営者
NEO SHIBUYA TV の八十五面が動いている渋谷横丁は、 MIYASHITA PARK の一階に位置する。 ここで運営主体は重層化している。 事業主は 三井不動産、 建物の商業運営は 三井不動産商業マネジメント、 屋上の渋谷区立宮下公園は 宮下公園パートナーズ(三井不動産+西武造園)、 渋谷横丁十九店舗の飲食運営は 株式会社浜倉的商店製作所(代表・浜倉好宣、 二〇〇八年に恵比寿横丁を立ち上げた人物)、 そして渋谷横丁内八十五面サイネージの運営が シブヤテレビジョン、 その上で動く編集編成が NEO SHIBUYA TV である。 同じ建屋に最低でも五つの編成主体が並存している。
二〇二六年二月開業の屋外プロムナード側には、 さらに三角柱型十六面+EV ファサード一面の新設サイネージ十七面が加わる。 こちらの編成プログラム「SCREENS CONTEXTUALIZED」は、 本誌発行元の NEORT Inc. が主催する。 本稿は同一建屋内の別系統の運営者である NEO SHIBUYA TV を扱う記事であり、 その点を当事者性として開示する。
DIG SHIBUYA との関係
渋谷の街頭ビジョンをアート編成で使う取り組みは、 NEO SHIBUYA TV が単独ではない。 二〇二四年から渋谷区主導で始まった DIG SHIBUYA は、 毎年二月の数日間に、 渋谷スクランブル交差点周辺の複数面を同期させて深夜帯に作品を上映する会期型のフェスティバルである。 キュレーター・参加作家・運営主体はすべて公的に開示されている。
両者は、 渋谷の街頭ビジョンを舞台にする点で重なるが、 設計は対照的である。 DIG SHIBUYA は 公的・会期型・キュレーター明示、 NEO SHIBUYA TV は 私的・常設型・キュレーター匿名。 ただし対立しているわけではない。 NEO SHIBUYA TV の公式 Instagram は、 二〇二六年二月十四日の DIG SHIBUYA「SHIBUYA CROSSING NIGHT ART」を Brandon Eversole の名前とともに自社チャンネルで告知している。 街頭ビジョンに対する取り組みとして、 両者は競合ではなく 異なる時間軸で同居する別解 であり、 必要に応じて協業する。 八年早く始まり、 七年間継続している NEO SHIBUYA TV の系譜は、 渋谷の街頭ビジョン編成の歴史において固有の場所を占めている。
残されている問い
本稿で確認できなかった事実を列挙する。 これらは公開情報の限界に属し、 推測で埋めない。
- 編成を担う個人・チームの実体(NEO SHIBUYA TV 本体・
@new_media_art双方とも個人名は非開示) - アーティストへの対価モデル(無償の露出か、 ギャラ支払いか)
- 30seconds museum 枠と広告枠の時間配分(同じ九基で広告とアートをどう同居させているか)
- Superchief Gallery NFT との契約形態(コミッション / レベニューシェア / 共催)
- シブヤテレビジョンと媒体販売を担う旧 KIZUNACAST(現 Well-being Management Labo Inc.)との契約形態
NEO SHIBUYA TV は、 誰が、 なぜ、 どう編成しているかを明らかにしないまま、 七年間、 渋谷の九十四面で続いてきた。 入口は複数化し、 関わる作家は四千件を越え、 観客は偶然見上げて気づく。 編成主体が前景化しないことを設計にしている、 と読むのが現時点でいちばん筋が通る。
出典
- Yokogao Magazine — NEO SHIBUYA TV: The Art Project Redefining Billboards in Tokyo
- 株式会社シブヤテレビジョン公式 — NEO SHIBUYA TV プロジェクト 2018-08 発表
- EYESCREAM — 次世代ストリートカルチャーを映す、 渋谷の街頭ビジョン番組がローンチ(2018-07-28)
- FNMNL — NEO SHIBUYA TV 30seconds museum 始動(2018-08-15)
- Arts Help — ICONS Partners with NEO Shibuya TV
- NEO SHIBUYA TV 公式 Instagram
- NEO SHIBUYA TV OPEN CALL VOL.1 公式投稿(2023)
- Chamber Lab — Self-initiated street art flash exhibition in Shibuya (2026)
- VFX artist self-celebration post (Instagram #neoshibuyatv)
- Spectator post in Japanese (Instagram #neoshibuyatv, 2022)
- Food Stadium — 渋谷横丁開業秘話 vol.1 浜倉好宣インタビュー
運用カルテ
- 株式会社シブヤテレビジョン(NEO SHIBUYA TV)
- 東京
- オペレーター委嘱 — キュレーター個別の声掛け・公募(OPEN CALL)・作家持ち込みの三系統が並走。キュレーターは非公開
- 広告枠と混在しつつ月平均約50件・週12件ペースで放映(30秒/15秒フォーマット)
- 渋谷スクランブル交差点周辺の街頭ビジョン9基+RAYARD MIYASHITA PARK 渋谷横丁の85面
- 2018-07
- 稼働中