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Artists作家

アルゴリズムは街に出る — Raven Kwok、生成する画面の作家論

Algorithms Take to the Streets: Raven Kwok and the Generative Screen

No.
150
種別
作家
著者
SCREENS LANDSCAPE 編集部
日付
読了
10分

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上海・West Bund の夜。黒い角柱の LED タワーに、ピンクの幾何学が明滅する。円と矩形が分裂し、組み変わり、また別の分割へと流れていく。手で描かれた模様ではない。空間を再帰的に分割していくアルゴリズムが生み出した図形が、都市スケールの光になって明滅している。

上海 West Bund の屋外 LED タワー「PixTower」に映る《1D985》。K-D tree による空間分割が、ピンクの幾何学として立ち上がる。
fig.001上海 West Bund の屋外 LED タワー「PixTower」に映る《1D985》。K-D tree による空間分割が、ピンクの幾何学として立ち上がる。1D985 on the PixTower LED at Shanghai's West Bund: K-D tree subdivision rising as pink geometry.© Raven Kwoksource

この画面をつくったのは Raven Kwok(郭鋭文)である。生成アートの多くが美術館の白壁やギャラリーのモニターに掛けられるなか、Kwok の作品は商業ビルの LED タワー、駅直結モールの時計、湖畔の巨大スクリーンといった、都市のインフラの上で走る。アルゴリズムが街に出るとはどういうことか。本稿はこの作家を、その一点から辿る。

写真からアルゴリズムへ

Raven Kwok、中国名を郭鋭文(Guo Ruiwen)という。1989年、上海に生まれた。最初に学んだのはアルゴリズムではなく、写真である。2007年から2011年まで上海視覚芸術学院で写真を学び、その後アメリカに渡って、Rensselaer Polytechnic Institute(RPI)で電子芸術の MFA を2012年から2014年にかけて取得した。現在は上海を拠点としている。

写真から電子芸術へ、という経路は、Kwok の作品を理解するうえで示唆的である。レンズがとらえるのは既にそこにある光景だが、Kwok が扱うのは、コードが生成する光景である。作家の公式バイオはその関心をこう記す。「His artistic and research interest mainly focus on exploring generative visual aesthetic brought by computer algorithms and software processes.」つまり、コンピュータのアルゴリズムとソフトウェアの過程がもたらす、生成的な視覚の美学。その探究が仕事の中心にある。

道具は Processing と Java を主軸とする。そして扱う素材は、絵具でも被写体でもなく、K-D tree、Voronoi、四分木、セルオートマトンといった、計算機科学が育ててきたアルゴリズム構造そのものである。データを空間に分割する仕組み、平面を細胞状に区切る仕組み、規則が伝播していく仕組み。これらを視覚化することが、Kwok の一貫した手法である。

こうした仕事は、国際的なメディアアートの回路で継続的に評価されてきた。Ars Electronica、FILE、Resonate、Microwave といった主要フェスティバルに、Kwok は繰り返し選出されている。仕事の射程はスクリーンの外にも及んだ。Netflix のドキュメンタリー『A Trip to Infinity』(2022)には、Kwok の生成システムによるアニメーションが使われている。同作は2023年、第44回 News & Documentary Emmy Awards の Outstanding Graphic Design and Art Direction: Documentary を受賞した。受賞したのは作品であり、Kwok 個人ではないが、その視覚言語が世界規模の映像作品の一部を担ったことは記録しておくに値する。

木構造を視る

Kwok の画面を前にすると、まず目に入るのは分割の運動である。ひとつの矩形が二つに割れ、その一方がまた割れ、割れた先がさらに割れていく。この再帰の運動を支えているのが、K-D tree や四分木といった木構造のアルゴリズムだ。

《1D985》の作品解説で、Kwok は自らの手法をこう説明している。

K-D tree structure is used to replace the quadtree frame in the original work. All leaf nodes throughout different recursion levels are applied with their respective transformation matrices, adding to the final visual complexity.

Raven Kwok — 1D985 @ UFO Terminalsource

四分木を K-D tree に置き換える。そして、異なる再帰の階層に散らばるすべての葉ノードに、それぞれ固有の変換行列を適用する。この一文には、Kwok の視覚がどこから来ているかが凝縮されている。画面の複雑さは、装飾として加えられたものではない。それは、木構造の各ノードが担う数学的な変換が積み重なった、必然の結果なのだ。美しさは、アルゴリズムの構造そのものから立ち上がる。

fig.002《1D985 @ UFO Terminal》。円筒 LED のために書かれた独自のプロジェクション行列が、曲面の内側で図形を呼吸させる。1D985 @ UFO Terminal: a custom projection matrix written for the cylindrical LED lets the geometry breathe on the curved surface.© Raven Kwok / 3ASiCsource

Voronoi もまた、Kwok が繰り返し用いる構造である。平面上に散らばった点から、それぞれの点に最も近い領域を切り出していくこの分割は、細胞や結晶、あるいは都市の勢力圏を思わせる有機的なパターンを生む。木構造が階層的な分割だとすれば、Voronoi は近接性による分割である。どちらも、空間をどう区切るかというアルゴリズムの問いを、視覚の問いへと翻訳している。Kwok の画面は、その翻訳の記録にほかならない。

街のスクリーンに移植する

Kwok の作品が生成アートのなかで特異な位置を占めるのは、その発表の場が美術館の壁ではないという点にある。アルゴリズムが走る場所は、街のスクリーンだ。

2023年、Kwok は杭州の大型都市スクリーン「西湖天幕」に《189D0, Digital Float》を展開した。西湖天幕は、湖浜の商業大通りに面した LED であり、その視界の先には世界遺産・西湖の景観が広がる。生成的な映像を都市スクリーンに流すプログラム「Digital Float」への参加であった。国営紙の China Daily は2023年12月4日、この試みを「Aesthetic of technology makes a comeback to the giant screen in Hangzhou's streets」と題して記名で報じている。技術の美学が、街の巨大スクリーンに帰ってくる、と。

同じ年から翌年にかけて、Kwok は上海 West Bund の TANK Shanghai で《1D985》を展開した。舞台は二つある。屋外の角柱状 LED タワー「PixTower」と、屋内の円筒 LED「UFO Terminal」だ。冒頭に述べた K-D tree による再帰的な空間分割が、ここで都市スケールの光として立ち上がる。サウンドは 3ASiC が手がけた。

この案件が示すのは、都市スクリーンに作品を出すという営みが、単なる「移植」では済まないという事実である。円筒 LED は曲面である。平面用に設計された映像を曲面にそのまま流せば、図形は歪む。Kwok はこの問題に、コードで応えた。円筒 LED のために、x軸方向のスケーリングを反転させる独自のプロジェクション行列を自作したのである。装置に合わせて作品を後から調整するのではなく、装置のジオメトリを作品の数学のなかに組み込む。曲面という物理的形状が、変換行列という作品の内部構造へと折り返される。これは、平面用コンテンツを曲面に流すという都市スクリーンの一般的な問題への、作家自身によるコードでの応答であった。

fig.003《Spacewarp》(重慶・龍門浩老街のトンネル、2022)。生成される光がトンネルの円弧を走る。Spacewarp (Longmenhao Old Street tunnel, Chongqing, 2022): generative light racing along the tunnel's arc.© Raven Kwok / 3ASiCsource

都市の装置は、平らな壁ばかりではない。角柱があり、円筒があり、トンネルの円弧がある。Kwok の仕事は、こうした多様なジオメトリのひとつひとつに、コードで向き合ってきた記録でもある。

七年間動き続ける時計

Kwok の公共スクリーンの仕事のなかで、もっとも静かで、もっとも根源的なものが、上海・莘荘の《time++》である。

《time++》は、地下鉄接続の複合開発 Todtown に恒久設置された、パーティクルによるアルゴリズミックな時計だ。2019年からそこにある。秒がパーティクルとして降り積もり、その粒の集積が時刻の数字を形づくる。時間が経てば、数字は崩れ、また次の数字へと組み変わる。時刻という、都市でもっとも公共的な情報が、生成アルゴリズムの運動として提示されている。

この作品が特異なのは、それが「作品」であることをやめて、道具になっている点である。フェスティバルの一夜を飾る展示ではない。駅前の複合施設に埋め込まれ、24時間稼働のインフラの一部として、毎秒動き続ける。人はそれを鑑賞するためではなく、時刻を知るために見上げる。生成アートが公共の道具へと溶けていく。ここには、街に置かれた画面のひとつの到達点がある。

秒がパーティクルとして降り積もる — 時間そのものが点描されていく。山水画の点景が風景に命を点すように、この時計は、莘荘の駅前という日常の風景に、絶えず生成し続ける一点を置いている。それは静止した絵ではない。フェスの一夜のように消えもしない。七年間、毎秒、動き続けるアルゴリズムである。生成アートの「点」が街に置かれるとき、それは止まらない点景になる。

結ばれ、ほどかれる

そして2025年の冬、Kwok のアルゴリズムはアムステルダムの運河へと出た。

第14回 Amsterdam Light Festival に、Kwok は《Knotted》を出品した。会場はアムステルダムの Wereldmuseum。中国の伝統的な結び — 中国結を、生成アルゴリズムで翻訳したインタラクティブな光のインスタレーションである。鑑賞者が近づき、動くと、それに応じてデジタルの紐が結ばれ、ほどかれる。手工芸の結び目が、コードによって解かれ、再び結び直される。会期は2025年11月28日から2026年1月18日まで、冬の運河の夜を灯した。

《Knotted》(2025、第14回 Amsterdam Light Festival、Wereldmuseum)。中国結を生成アルゴリズムで翻訳し、鑑賞者の動きに応じて紐が結ばれ、ほどかれる。
fig.004《Knotted》(2025、第14回 Amsterdam Light Festival、Wereldmuseum)。中国結を生成アルゴリズムで翻訳し、鑑賞者の動きに応じて紐が結ばれ、ほどかれる。Knotted (2025, 14th Amsterdam Light Festival, Wereldmuseum): a Chinese knot translated by a generative system, tying and untying in response to a visitor's movement.© Raven Kwoksource
fig.005最新作《Cyber Pulse》(2026)。相互接続された Voronoi のシステムが、層をなして脈動する。Cyber Pulse (2026): interconnected Voronoi systems pulsing in layered dimensions.© Raven Kwoksource

《Knotted》が示すのは、Kwok というポジションの稀有さである。上海を拠点に、杭州・深圳・重慶といった都市スクリーンの網に接続しながら、同時に Ars Electronica や Amsterdam Light Festival のような国際フェスティバルにもつながっている。中国の伝統的な手工芸を、生成アルゴリズムで翻訳し、それをオランダの冬の夜に灯す。中国のサイネージ×アートの現場と、世界のメディアアートの回路とを、一人の作家が結んでいる。

本誌が中国のサイネージ×アートを辿っていくとき、Kwok はその最初の結び目になる。写真から始め、木構造と Voronoi を視覚化し、円筒 LED のために行列を書き、駅前の時計を七年動かし、運河に結び目を灯す。その一つひとつが、街の風景に点景として立ち上がる瞬間であった。アルゴリズムは、いま、街に出ている。

出典

  1. fig.0011D985 @ PixTower — Raven Kwok(作家公式)
  2. fig.0021D985 @ UFO Terminal — Raven Kwok(Vimeo)
  3. fig.003Spacewarp @ Longmenhao Old Street Tunnel — Raven Kwok(Vimeo)
  4. fig.004Knotted @ Amsterdam Light Festival — Raven Kwok(作家公式)
  5. fig.005Cyber Pulse — Raven Kwok(Vimeo)
  6. [6]About — Raven Kwok(作家公式・経歴)
  7. [7]Aesthetic of technology makes a comeback to the giant screen — China Daily(2023-12-04)
  8. [8]2023 Documentary Emmy Awards Winners List — The Hollywood Reporter
  9. [9]Edition #14 has opened — Amsterdam Light Festival
  10. [10]Amsterdam Light Festival — Wereldmuseum Amsterdam

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