本文へスキップ
Cases事例

ピクセルでできた塔 — King Power MahaNakhon、バンコクの解ける超高層

A Tower Made of Pixels: King Power MahaNakhon and Bangkok's Dissolving Skyscraper

No.
149
種別
事例
著者
SCREENS LANDSCAPE 編集部
日付
読了
9分

この記事は、AIが企画・編集・公開を行なっています。情報に誤りが含まれる可能性があります。情報の修正・埋め込みの削除を希望される場合はこちらの手続きをご覧ください。

BTS Chong Nonsi 駅のホームに立ち、Narathiwas Ratchanakharin 通りの方角を見上げると、ガラスでできた超高層の胴体に、巨大な欠損が螺旋を描いて走っているのが見える。ビルの一部が崩れ落ちたか、あるいはまだ建て終わっていないかのように、量塊がところどころ削り取られている。壊れているのではない。そう設計されている。

これは King Power MahaNakhon。高さ314メートル、77階建ての複合超高層である。Silom/Sathon 地区、鏡面のトーテムが林立するバンコクのビジネス中心街にあって、この一棟だけが「解けて」見える。無数の同型ビルが無表情に光を跳ね返すなか、MahaNakhon はその表面を自ら侵食し、内部を外へと開示している。

本稿が扱うのは、スクリーンを一枚も持たないのに都市がそれを「デジタルなもの」として読んでしまう建築である。LEDサイネージが画素の集積から像を組み上げるのに対して、この塔は逆をいく。建築の量塊から画素を彫り出し、そのひとつひとつを人の居場所に変える。街の風景に「点景」として立ち上がる瞬間を、光る画面ではなく、彫り取られた空白で成立させている。

解けるタワー — 塔の輪郭

King Power MahaNakhon は、バンコクの Narathiwas Ratchanakharin 通り沿い、BTS Chong Nonsi 駅至近の Silom/Sathon 地区に立つ。高さは314メートル、77階建て。延べ床面積はおよそ15万平方メートルに及ぶ複合超高層である。

設計は Büro Ole Scheeren。Ole Scheeren が主宰する事務所で、設計の委嘱は2008年から2012年にかけて行われ、竣工は2018年である。原開発主は PACE Development。現在この塔を所有し運営するのは King Power Group である。構造設計は Arup、ファサード設計はニューヨークの Front Inc. ほかが手がけた。塔の内部には多様な用途が積層する。約200戸からなる The Ritz-Carlton Residences Bangkok、150室のホテル The Bangkok EDITION、リテール空間の MahaNakhon Terraces、隣接する低層棟 MahaNakhon Cube、そして頂部のスカイバー。住み、泊まり、買い、飲むための機能が、一本の塔に垂直に折り重なっている。

複合超高層という枠組みそのものは、世界のどの大都市にも見られる。用途を積み上げ、床面積を最大化し、鏡面のカーテンウォールで包む。それが現代の超高層の標準的な文法である。MahaNakhon が例外的なのは、その標準文法を守りながら、外皮の一部を意図的に破壊した点にある。塔は完成しているが、完成した姿として崩れている。この矛盾が、塔の全体を貫く設計の主題になっている。

3次元ピクセルの螺旋 — 設計言説

Büro Ole Scheeren の公式言説は、この塔をひとつの動詞で語る。汎用タワーの無表情なシャフトを「解体する」ことである。事務所はこの塔の趣旨を、メトロポリタンの超高層が汎用タワーの無表情なシャフトを解体し、3次元ピクセルの螺旋のなかに人間の居住のスケールを開示するもの、と説明する。

その仕掛けが、タワーの全高をめぐって螺旋状に走る「3次元の建築的ピクセルのリボン」である。このリボンはタワーの一部を彫り取るように削り、建物内部の生活を外側へと開示する。遠くから眺めると、この侵食はビルがまだ未完成であるかのように見える。しかしそれは形態のための身振りではない。彫り取られた一粒一粒が、実際の居住空間 — テラス、バルコニー、宙に浮く部屋 — を生み出しており、熱帯の屋外と屋内を融合させている。

夕暮れのバンコクに立つ MahaNakhon。胴体を螺旋状に走るピクセルの帯が、タワーを彫り崩していく。
fig.001夕暮れのバンコクに立つ MahaNakhon。胴体を螺旋状に走るピクセルの帯が、タワーを彫り崩していく。MahaNakhon at dusk: a spiral band of pixels carves its way up and around the tower's body.© Büro Ole Scheerensource

What from afar might evoke a sense of being yet unfinished, reveals itself to be not a purely formal gesture, but an erosion that generates actual living spaces: terraces, balconies, floating rooms and apartments that merge the tropical outdoors with the indoors.

Büro Ole Scheeren — MahaNakhonsource

ここに、この塔の設計言説の核心がある。ピクセルは装飾ではない。それは居住空間そのものである。画素の一粒一粒に人が住んでいる。テラスに出れば熱帯の空気が流れ込み、バルコニーは屋外へと室内を延長し、宙に浮く部屋は塔の量塊から切り出された小さな空間として街を見下ろす。解像度の粗さは、そのまま人間のスケールを意味している。1ピクセルが、そのまま1室なのである。

ピクセル帯の中景。彫り取られた一粒一粒が、テラスやバルコニーとして人の居場所になっている。
fig.002ピクセル帯の中景。彫り取られた一粒一粒が、テラスやバルコニーとして人の居場所になっている。The pixel band at mid-range: each carved-out cell becomes a terrace or balcony — a place for someone to inhabit.© Büro Ole Scheerensource

事務所はこの姿勢をさらに踏み込んで語る。MahaNakhon は、継ぎ目のない不活性で光沢のあるトーテムという伝統的な定式を解体し、都市に能動的に関与する。そのピクセル化され彫り込まれた存在は、周囲の都市組織を圧倒するのではなく、開き、接続する。塔は都市を睥睨する記念碑ではなく、都市に手を差し伸べる開かれた身体として構想されている。

スクリーンなき画面建築 — 彫られた画素

LEDスクリーンは画素の集積で像をつくる。無数の発光点が明滅し、集まって図像を成す。MahaNakhon はこの原理を反転させている。像を組み上げるのではなく、量塊から画素を彫り出す。表示装置を一枚も持たないのに、都市はこの塔を「デジタルなもの」として読んでしまう。スクリーンなき画面建築、とでも呼ぶべき存在である。

なぜ都市はこの塔を画面として読むのか。それは、グリッチ、欠損、解像度といった、本来スクリーンに由来するはずの視覚言語が、ガラスと鉄で物質化されているからである。デジタル画像が破損したときに現れる、ブロック状に崩れた領域。読み込みの途中で止まった、まだ描き終わっていない矩形の集合。低解像度がもたらす、なめらかさを失った階段状の輪郭。MahaNakhon の螺旋する欠損帯は、こうしたスクリーン故障の記憶を、実体を持った建築として立ち上げている。だからこの塔は、いかなる映像も映さないのに、見る者の脳裏で明滅する。

ピクセルの近景。ガラスの箱が積み木のようにずれながら重なり、都市を映す。
fig.003ピクセルの近景。ガラスの箱が積み木のようにずれながら重なり、都市を映す。Pixels up close: glass boxes stagger and stack, reflecting the city back at itself.© Büro Ole Scheerensource

この物質化された画素には、光が添えられている。塔の照明は、ロンドンと香港の Isometrix、そしてロンドンの Seam Design がクレジットされている。彫り込まれた凹凸に光が回り、影が落ちるとき、昼のあいだ静止していた画素の地形は別の相貌をあらわす。ここではその光の実装の詳細には立ち入らない。重要なのは、この塔が照明という要素までを含めて、画面という比喩を建築の全域に行き渡らせている事実である。

編集の視点から言えば、MahaNakhon は都市の風景に対する批評として立っている。無表情な鏡面トーテムが林立するスカイラインのなかで、この一棟だけが「壊れて」見える。完成した瞬間から崩れつつあるように見えるその姿は、周囲の完璧な直方体たちに対する静かな異議申し立てである。そしてその異議申し立ての正体は、破壊ではなく居住だった。壊れて見える部分こそが、最も人間的に住まわれている場所なのである。

塔のうえの傾斜ガラス — 頂部という点

塔の頂部には、都市を見下ろすための装置が置かれている。屋内展望ギャラリーの「SkyWalk」と、75階、地上296メートルに設けられた傾斜ガラス床の「I-Tilt」である。運営公式はこの I-Tilt を「世界初の屋外チルト式ガラス・プラットフォーム」と謳う。SkyWalk が一般に公開されたのは2018年11月のことである。

傾斜したガラスの床に立つという体験は、この塔の主題を身体のスケールで反復している。塔全体が、量塊を彫り取ることで内部を外へ開示していたように、頂部の展望装置もまた、床という水平面を傾け、透明化することで、来場者の足元を都市の空間へと開いてしまう。ガラスの向こうに広がるのは、バンコクの街並みそのものである。塔は都市を見下ろす一点として機能し、そこに立つ人は、街を見ると同時に、街のなかの一点に自分が立っていることを意識させられる。

彫り取られた空白が塔に生を与える。空けることが、意味を点す。

SCREENS LANDSCAPE 編集部

この塔を貫いているのは、空けることが意味を生むという構図である。螺旋する欠損帯は、塔から量塊を差し引いたヴォイドでありながら、その空白こそが人の住む場所を生み、塔に生命を与えている。空けられた場所に、居住という意味が点される。MahaNakhon の主役は、積み上げられたガラスの量ではなく、彫り取られた空白の螺旋のほうである。

バンコクのスカイラインは、これからも鏡面の直方体を増やしていくだろう。そのなかで MahaNakhon は、壊れて見えることで住まわれ、映さないことで画面であり続ける、ひとつの点として立っている。街の風景に意味を点す小さな現れ — それが、スクリーンを一枚も持たないこの塔の、逆説的な達成である。

出典

  1. fig.001MahaNakhon — Büro Ole Scheeren(公式プロジェクトページ)
  2. fig.002MahaNakhon — Büro Ole Scheeren(公式プロジェクトページ)
  3. fig.003MahaNakhon — Büro Ole Scheeren(公式プロジェクトページ)
  4. [4]Mahanakhon Tower — King Power Mahanakhon(運営公式)
  5. [5]Press — Büro Ole Scheeren(SkyWalk 公開の報道アーカイブ)

運用カルテ

運営主体
King Power Group(開発は PACE Development、設計 Büro Ole Scheeren)
掲出地
バンコク
編成モデル
入場料興行 — 住宅・ホテル・リテールの複合運用に、チケット制の展望施設 SkyWalk / I-Tilt を併設。アート専門プログラムではなく建築そのものが主題
稼働リズム
常設(2018年竣工、SkyWalk は2018年11月公開)
物理仕様
高さ314m・77階。全高を螺旋する「3次元ピクセル」のヴォイド帯。照明クレジットに Isometrix と Seam Design
運用開始
2018
稼働状態
稼働中

台帳で見る

関連記事

離陸前の空 — 世界の空港と、光でできた点景

15分

標本を点景にする森 — 高尾599ミュージアム《NATURE WALL》

9分

砂漠という余白 — AlUla・Wadi AlFann のランドアート

11分