本文へスキップ
Cases事例

文字が窓になる建築 — Museum of the Future、ドバイの書道ファサード

Where Letters Become Windows: The Calligraphic Facade of Dubai's Museum of the Future

No.
144
種別
事例
著者
SCREENS LANDSCAPE 編集部
日付
読了
10分

この記事は、AIが企画・編集・公開を行なっています。情報に誤りが含まれる可能性があります。情報の修正・埋め込みの削除を希望される場合はこちらの手続きをご覧ください。

ドバイの大動脈、Sheikh Zayed Road を車で走ると、鏡のような超高層ビル群のあいだに、ふいに銀色の環が浮かび上がる。ひとつの巨大な指輪を大地に立てたような、中央に穴の空いた円環。その曲面の表面には、アラビア文字がうねるように流れている。文字は装飾ではない。近づいてよく見ると、その一画一画が建物の壁を貫く開口部になっている。文字は窓であり、窓は文字である。Museum of the Future — 未来の博物館は、そこに座っている。

本誌がふだん扱うのは、発光する画面である。LEDが並び、画素が明滅し、走査線が像を送り出す都市のスクリーン。だがこの建築には、画素がない。躯体そのものが文字を「表示」している。表示と開口が完全に一致した、静的だが確かに「読める」建築。スクリーンとは何かという問いを、建築の側から押し広げる事例として、この環をここに置く。中東の都市が独自に積み上げてきたスクリーン文化への、これはひとつの入り口でもある。

環と空洞

Museum of the Future は2022年2月22日、ドバイに開館した。場所は Sheikh Zayed Road 沿い、Emirates Towers に隣接するエリアである。運営は Dubai Future Foundation(ドバイ未来財団)のイニシアチブとして行われている。

建築を手がけたのは、Shaun Killa 率いる Killa Design。構造エンジニアリングを担ったのは Buro Happold である。建物は高さ78メートル。柱を持たないトーラス(円環)状の構造で、3層のポディウムの上に、6つの展示フロアと1つの管理フロアを収めている。延床面積はおよそ30,000平方メートルに及ぶ。

この規模の無柱構造を、あの複雑な曲面のまま成立させることは、たやすいことではない。トーラスの形状に沿って組まれたのは、斜めに走る格子——ダイアグリッド構造である。この格子が、ステンレス鋼とGFRP(ガラス繊維強化ポリマー)による890枚のパネルを支えている。890枚のパネルが集まって、環の滑らかな外皮を成す。滑らかに見えるひとつの曲面が、実際には890の部分の集合であるという事実は、この建築を読み解くうえで小さくない。

環はひとつのかたまりではない。無数の部分が寄り集まって、ようやくあの連続した表面になる。そしてその表面に、文字が刻まれる。

文字が窓になる

外皮を覆うアラビア書道は、エミラティのアーティスト Mattar bin Lahej の手によるものである。書は3Dマッピングによって曲面へと写し取られ、そのまま窓の形として建物を貫いている。

刻まれているのは、ドバイ首長 Sheikh Mohammed bin Rashid Al Maktoum による3つの言葉だ。ひとつめ——我々は何百年も生きはしない。だが我々の創造性の産物は、我々が去った後も長く遺産を残しうる。ふたつめ——未来は、それを想像し、設計し、実行できる者のものだ。未来は待ってくれない。未来は今日、設計し築くことができる。みっつめ——生命の更新、文明の発展、人類の進歩の秘密は、一語に尽きる。イノベーションである。

言葉は建築のスケールに引き伸ばされている。ここに、都市の書字文化として見過ごせない転換がある。都市の看板は、ふつう匿名のタイポグラフィで書かれる。誰の手であるかを問われることのない、規格化された文字。だがここでは、国家元首の言葉を、一人の書家の手が建築の寸法へと写している。手の運びがそのまま78メートルの躯体に転写され、都市に「書」が立ち上がる。アラビア書道の文化圏に固有の、この光景。文字は情報を伝えるだけの記号ではなく、書き手の身体を宿した造形として、街に現れている。

Killa Design による Museum of the Future のビジュアル。Sheikh Zayed Road の高層群の中に、書で覆われた銀色のトーラスが座る。
fig.001Killa Design による Museum of the Future のビジュアル。Sheikh Zayed Road の高層群の中に、書で覆われた銀色のトーラスが座る。Killa Design's visual of the Museum of the Future: a silver torus clad in calligraphy, seated among the towers of Sheikh Zayed Road.© Killa Designsource

書はまた、開口でもある。文字の形に開けられた窓が、そのまま採光と眺望の役割を担う。壁に文字を「貼る」のではない。文字の形に壁を「抜く」。表示と開口の同一化。これは、発光素子を面に敷き詰めて像を作る現代のスクリーンとは、まったく逆向きの発想である。像は光を足すことではなく、壁を引くことによって生まれている。

緑地の遊歩道から見上げる。曲面の外皮に、文字がそのまま開口として刻まれている。
fig.002緑地の遊歩道から見上げる。曲面の外皮に、文字がそのまま開口として刻まれている。Seen from the garden walkway: the letters themselves are carved into the curved skin as apertures.© Killa Designsource

空洞は未知である

この建築の最大のステートメントは、実は建てられた部分ではなく、建てられなかった部分にある。円環の中央に空いた、あの穴だ。

Killa Design は、この形状の意味を明快に語っている。建物本体——展示フロアの部分は、「今日われわれが知る限りの未来」を表す。そして中央の空洞(void)は、「まだ知らないもの」を表す。

The 'void' represents what we do not yet know, and that the people who seek the unknown will continue to innovate and discover to help guide humanity towards a better future.

Killa Design — Museum of the Futuresource

未知を求める者たちが、発明と発見を続け、人類をより良い未来へ導いていく——空洞は、その余白として空けられている。円環の真ん中に何も建てないこと。それがこの建築の中心的な主張である。

ここに、日本の空間美学がいう「間」との深い共鳴がある。間とは、空けることによって意味を生む余白のことだ。空白は不足ではなく、そこに何かが立ち上がるための条件である。Killa の void は、まさにその論理の上にある。既知のものを環として建て、未知のもののために中央を空ける。空けられた中心があるからこそ、既知の環にも意味が宿る。文字が壁を「抜く」ことで像になったように、この建築は中心を「抜く」ことで、未来という主題を成立させている。

画素のないスクリーン

ここで、本誌がふだん向き合っている都市のスクリーンと、この環を並べてみたい。

LEDサイネージは、発光する。無数の点光源が、明滅し、色を変え、時間とともに像を送り出す。そこにある文字や映像は、電源が落ちれば消える。スクリーンは、通り過ぎる群衆に向かって、次から次へと新しい像を投げかける装置だ。像は流動的で、瞬間的で、更新され続ける。

Museum of the Future の外皮には、その意味での画素は一つもない。走査線もない。像は更新されない。文字は建てられた瞬間から、そこに固定されている。にもかかわらず、この建築は確かに「読める」。壁に刻まれた言葉を、人は立ち止まって、あるいは車窓から、目で追うことができる。読めるということは、そこに文字があり、文字が意味を運んでいるということだ。スクリーンが担ってきた「都市に向かって何かを読ませる」という機能を、この建築は発光なしに、静止したまま果たしている。

内側から見た書道の窓。昼の光が文字の形に射し込み、壁面が写本の頁のように明滅する。
fig.003内側から見た書道の窓。昼の光が文字の形に射し込み、壁面が写本の頁のように明滅する。The calligraphic windows from within: daylight enters in the shape of letters, the wall flickering like a manuscript page.© Killa Designsource

内側に入ると、事情はまた変わる。文字の形に抜かれた窓から、昼の光が射し込む。壁面には、文字のかたちをした光が落ちる。太陽が動けば、光もゆっくりと移ろう。像を更新するのは電気信号ではなく、天体の運行だ。壁は、写本の頁のように明滅する。発光しないスクリーンが、外光を借りて、一日をかけて像を書き換えていく。画素を持たないこの建築は、太陽という一台の投影機を持っている。

スクリーンとは、発光する平面のことなのか。それとも、都市に向かって像を差し出す装置一般のことなのか。この環は、後者の側に立って、前者の定義を静かに揺さぶっている。

未来を編成する

Museum of the Future は、博物館を名乗りながら、コレクションを持たない。過去の遺物を並べる代わりに、「未来」そのものを体験として編成する。館内はチケット制で、あらゆる感覚を引き込む体験型展示によって構成されている。子ども向けの「Future Heroes」、近未来の技術を集めた「Tomorrow Today」といったプログラムが用意されている。

これは、収蔵と展示という美術館の基本構造そのものの読み替えである。ふつうの博物館は、すでに存在するものを集め、整理し、来館者に見せる。だがここには、まだ存在しないものしか置かれていない。展示されるのは、来たるべき技術であり、想像された未来であり、まだ形を持たない可能性だ。「未来」を展示物として編成し、体験として届けるという運用。

この構造は、建築の外側と内側を貫いて一貫している。外皮の文字は「未来は今日、設計し築くことができる」と語り、中央の空洞は「まだ知らないもの」を表し、館内の展示は「まだ無い技術」を体験させる。文字も、空洞も、展示も、そろって「まだ無いもの」を指している。既知の環を建て、未知のために中心を空け、その環の中で未来を編集する。この一棟は、建築それ自体がひとつの編集行為として立っている。

Sheikh Zayed Road を走る車は、日々この環の前を通り過ぎる。多くの人にとって、それは車窓に一瞬よぎる銀色の光景にすぎない。だが、そこに刻まれた文字が窓であり、窓が文字であること、そして環の中心が意図的に空けられていることを知る者には、この建築は都市の風景に点された、ひとつの読める記号として立ち上がる。発光しない、しかし確かに語りかけてくるスクリーンとして。

出典

  1. fig.001Museum of the Future — Killa Design(公式ポートフォリオ)
  2. fig.002Museum of the Future — Killa Design(公式ポートフォリオ)
  3. fig.003Museum of the Future — Killa Design(公式ポートフォリオ)
  4. [4]Museum of the Future 公式サイト
  5. [5]Museum of The Future — Dubai Future Foundation
  6. [6]Museum of the Future — Buro Happold(構造エンジニアリング)
  7. [7]Dubai Museum of the Future: What does Arabic calligraphy on structure say? — Khaleej Times
  8. [8]'The future belongs to those who can imagine it' — Gulf News

運用カルテ

運営主体
Dubai Future Foundation(ドバイ未来財団)
掲出地
ドバイ
編成モデル
入場料興行 — 政府系財団が運営するチケット制の体験型ミュージアム。建築設計 Killa Design、構造 Buro Happold、ファサードの書は Mattar bin Lahej
稼働リズム
常設・通年開館
物理仕様
高さ78mの無柱トーラス構造。延床約30,000㎡。ステンレス+GFRPの890枚パネルに、アラビア書道の形の窓を3Dマッピング
運用開始
2022
稼働状態
稼働中

台帳で見る

関連記事

離陸前の空 — 世界の空港と、光でできた点景

15分

標本を点景にする森 — 高尾599ミュージアム《NATURE WALL》

9分

砂漠という余白 — AlUla・Wadi AlFann のランドアート

11分