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Cases事例

街路樹のあいだの光樹 — Taipei Lumitree 敦南之森と「アート先行」の戸外スクリーン

A Light Tree Among the Street Trees: Taipei Lumitree and the Art-First Outdoor Screen

No.
113
種別
事例
著者
SCREENS LANDSCAPE 編集部
日付
読了
12分

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台北・大安区の敦化南路二段は、台北でも有数の街路樹アーケードを持つ通りである。フタバガキやガジュマルの枝が車道の上で交わり、「敦南林蔭大道」と通称される緑の回廊が、歩道をやわらかく覆っている。その緑陰の途切れた一角、寶紘敦南商業大樓の広場に、二〇二四年の秋から高さ一〇メートルの「光の樹」が立っている。Taipei Lumitree、中文名で「敦南之森」。三六〇度をぐるりと囲うLEDの円柱と、その背後に立つ透明LEDの壁が、街路樹のあいだにもう一本、人工の樹を植えたように点っている。

夜になると、透明な壁の向こうに台湾石虎(ベンガルヤマネコ)の影が現れる。LUMiと名づけられたこのキャラクターは、壁面の森のなかを歩き、円柱の裏に回り込んだ通行人に尻尾を見せ、日々の挨拶を返す。絶滅危惧種の野生動物が、商業ビルの広場に据えられた一〇メートルのスクリーンの主役を務めている——この一点に、Taipei Lumitree という装置の編集方針が凝縮されている。

系譜

Taipei Lumitree を開発したのは、寶紘建設と凱越建設という二つの台湾のデベロッパーである。だが装置の設計・運営・コンテンツ編成を担うのは、ニューヨークを拠点に Times Square の大型戸外メディアを運営してきた Tiger Party であり、Taipei Lumitree は同社にとってアジア初の案件にあたる。台湾系媒体は二〇二四年九月のプレオープン期から「敦南之森 揭幕」として一斉にこれを報じ、Tiger Party の完工リリースは同年一一月一八日に出された。

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fig.001敦化南路二段に立つ Taipei Lumitree 敦南之森。三六〇度のLED円柱と透明LED壁が、街路樹アーケードの緑陰に重なる。Taipei Lumitree on Dunhua South Road — a 360-degree LED column and transparent LED wall set within the street-tree arcade.© 數位時代 BusinessNextsource

この装置を、台北という都市の一回限りの新名所として読むこともできる。しかし TENKEI の視点から見れば、Taipei Lumitree は東アジアの「常設アート・サイネージ」の系譜のなかに置かれるべき事例である。香港・銅鑼湾の SOGO ファサードが広告塔の隙間にアートを差し込んできた事例、そして二〇一五年から東京・渋谷で動いてきた西武渋谷の壁面が、いずれもすでに本誌の射程に入っている。敦化南路の光樹は、そこにもう一つの極を加える。Times Square 級のスペックを持つ常設スクリーンが、開業の時点から「アートを流す場所」として設計された——その出自が、この事例を東アジアのサイネージ地図のなかで際立たせている。

装置と編成

ハードウェアの数値は、各媒体のあいだでほぼ一致している。総LED面積は二五四平方メートル、高さ一〇メートル、画素ピッチは屋外向けのP2.9。台湾系の各媒体はこれを「8K級」「Times Square 同等」と形容する。装置の中心をなすのは三六〇度のLED円柱と、その背後に立つ透明LEDの壁である。透明LEDの透過率は七五パーセントを超える仕様で、背後の街路樹と空が壁を透けて見えるよう設計されている。光の樹を一本足しても、敦化南路の緑のアーケードを塞がない——透過率という数字の裏には、街路樹の景観と人工スクリーンを両立させようとする設計判断がある。

編成を担う Tiger Party は、設計の段階から「アートを最優先する(Art First)」運用方針を掲げた。立ち上げ展は、Randi Zuckerberg と Debbie Soon が共同設立したグローバルな作家コミュニティ HUG との提携で組まれ、国際公募には一二九件の応募が集まり、そこから一二組が選ばれた。選ばれた作品は静止画ではなく、三六〇度の円柱と透明壁という特殊なフォーマットを前提に構成されている。装置の形そのものが、作品の作り方を規定しているのである。

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fig.002マスコット LUMi(台湾石虎)。透明LED壁の森のなかを歩き、円柱の裏に回り込んだ通行人に尻尾を見せる。デザインは JL DESIGN。The mascot LUMi, a Taiwanese leopard cat designed by JL DESIGN, walking through the forest on the transparent LED wall.© 台北旅遊網 Taipei Travelsource

立ち上げ展のあと、Tiger Party は「City Lullaby」という台湾国内向けの公募プログラムを継続して運用している。国際公募(HUG経由)とは別に、地元の作り手から「街並みを豊かにする創作」を募る草の根の枠である。さらに二〇二六年には、Taipei Lumitree は Taipei Art Week の公式リスティングに「Art Institution(芸術機関)」として登録された。戸外の大型LEDが、広告媒体ではなく芸術機関のカテゴリーで都市の文化プログラムに数え入れられた——この分類の変化が、装置の性格を対外的に確定させつつある。

編集視点

Taipei Lumitree が示すのは、戸外スクリーンの「反転モデル」である。都市の大型ビジョンは通常、広告媒体として設置され、空き枠や記念日にアートが差し込まれる。香港・銅鑼湾の事例がまさにそうで、広告塔の隙間にアート介入が積み重ねられてきた。Taipei Lumitree はこの順序を逆転させた。開業の時点からアートを流す場所として設計され、商業ブランディングはむしろ後から運用に組み込まれていく。「広告の隙間のアート」ではなく、「アートの装置に商業が間借りする」構造である。

この反転を象徴するのが、マスコット LUMi の選択である。商業ビルの広場に据えられた一〇メートルのファサードの主役を、企業ロゴでも商品でもなく、絶滅危惧の台湾固有種に委ねる。台湾石虎は保全運動の象徴的な動物であり、それを街路樹アーケードの光樹に住まわせるという判断は、この装置が明らかな広告塔への転用を初手から退けていることを示している。アートと商業広告の境界線上で、意識的に「アート寄り」へ重心を置く——その運用ロジックの教科書的な実例がここにある。

広告塔の隙間にアートを差し込むのではなく、アートの装置に商業がときおり間借りする。Taipei Lumitree は戸外スクリーンの順序を逆さにしている。

SCREENS LANDSCAPE 編集部

命名そのものも、本誌が掲げる主題と響き合う。Lumitree は光(Lumi)と樹(Tree)の合成語であり、中文名「敦南之森」もまた光の森を名乗る。街路樹のアーケードという既存の緑——景色のなかに空いた「間」——に、人工の光樹を一本の点として植える。山水画に描き込まれる小舟や人影が風景を生きたものに変えるように、敦化南路の緑陰に点された光の樹は、見慣れた通りの景色を更新する。「間」が空間を空ける概念だとすれば、Taipei Lumitree の光樹は、その空いた緑の回廊に意味を点す試みである。

展望

立ち上げプログラムのなかで、本誌がとりわけ注目するのは、ドキュメンタリー作家・程紀皓と、電子音楽レーベル ANKR を主宰する Gazer(Gary Chen)による山林映像とサウンドスケープの協働である。台湾の原生山岳の映像を一〇メートルの透明壁に投影し、ANKR が書き下ろした自然音を重ねる。街路樹という物理の森と、壁面に映る映像の森と、流れ込む自然音とが、一基の装置の上で三重に折り重なる。

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fig.003程紀皓の台湾山林映像に、ANKR / Gazer が書き下ろしたサウンドスケープ《台灣山林之聲》を重ねたプログラム。A program pairing Cheng Chi-hao's footage of Taiwan's mountain forests with an original soundscape by ANKR / Gazer.© ANKR / Gazer(Gary Chen)source

この三重のレイヤーは、同じ東アジアの常設ファサードのなかでも Taipei Lumitree に固有の方向性を示している。香港・西九龍の M+ ファサードが、ヴィクトリア・ハーバーに向けて「空中の絵画」を掲げる垂直の画面だとすれば、Taipei Lumitree は街路樹の延長として地上に立つ「光景」を志向する。前者が都市のスカイラインに作品を浮かべるのに対し、後者は歩行者の視線の高さで、緑陰のなかに作品を点す。同じ「常設のスクリーンにアートを流す」という営みでも、装置の置かれる高さと周囲との関係によって、まったく異なる景が立ち上がる。

東京・渋谷の西武の壁面が二〇二六年九月に役割を終えると報じられるなか、東アジアで「広告から切り離された常設アート・スクリーン」を担う拠点は、静かに重心を移しつつある。台北・敦化南路の街路樹のあいだに植えられた光の樹が、これから何を点していくのか。緑の回廊に置かれたこの一点は、まだ開いた問いである。


出典

  1. fig.001數位時代 — Taipei Lumitree 敦南之森(Instagram reel)
  2. fig.002台北旅遊網 Taipei Travel — Taipei Lumitree(Instagram)
  3. fig.003ANKR — 台灣山林之聲 / Taipei Lumitree(Instagram)
  4. [4]Taipei Lumitree 公式サイト
  5. [5]Taipei Art Week 2026 — Taipei Lumitree listing
  6. [6]Tiger Party's first Asian LED project is landmark installation — AV Interactive(2024-11-18)
  7. [7]360-Degree LED Column, 10m High Dynamic Windows at New Public Media Project in Taipei — invidis(2024-11-15)
  8. [8]台北時尚新地標 Taipei Lumitree 敦南之森 — 中央社
  9. [9]HUG

運用カルテ

運営主体
Tiger Party(NY拠点。設計・運営・編成)/ 開発は寶紘建設・凱越建設
掲出地
台北
編成モデル
企業文化事業 — 「Art First」方針。立ち上げは作家コミュニティ HUG との提携、台湾国内公募「City Lullaby」を継続。2026年に Taipei Art Week へ「芸術機関」として登録
稼働リズム
常設。立ち上げ展+継続公募+特別編成
物理仕様
高さ10mの360度LED円柱+透明LED壁(透過率75%超)。総LED面積254㎡、P2.9ピッチ
運用開始
2024-11
稼働状態
稼働中

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