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Cases事例

広告のない大画面 — Federation Square と公共がキュレーションするスクリーン

A Big Screen Without Advertising: Federation Square and the Publicly Curated Civic Display

No.
114
種別
事例
著者
SCREENS LANDSCAPE 編集部
日付
読了
11分

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メルボルンの中心、フリンダース・ストリート駅の向かいに、角ばった砂岩とガラスの建物に囲まれた不定形の広場がある。Federation Square。週末には数万人が集まり、AFL のグランドファイナルやテニスの全豪オープンの中継に歓声を上げ、冬には光のフェスティバルの作品を見上げ、ふだんは待ち合わせや昼食の人々がベンチを埋める。その広場の一角、建物のファサードには、五階分の高さに及ぶ大型 LED スクリーンが立っている。だが、この画面には広告が一切流れない。

本稿が読み解こうとするのは、この大画面が「広告を排した公共メディア」として、二十年以上にわたって公共のキュレーションで運用されてきたという事実である。商業 DOOH が街路を埋め尽くす時代に、自治体が所有する広場のスクリーンが、売るためではなく、集まる人々のために編成され続けている。本誌が「会(KAI)」と呼ぶ、人が集う場としてのスクリーンの、ひとつの到達点がここにある。

fig.001Federation Square の大型スクリーンを含むデジタル環境を紹介する公式映像。広場のファサードに統合された画面が、広告ではなく公共のコンテンツを映す。An official film introducing the digital environment around Federation Square's Big Screen — a display integrated into the plaza's facade, showing public content rather than advertising.© Fed Squaresource

連邦百年の広場

Federation Square は二〇〇二年十月二十六日に開業した。オーストラリア連邦成立(一九〇一年)の百周年を記念する構想から生まれたが、建設の遅延で、開業は百周年の年を越えた。設計は、ロンドンを拠点とする Lab Architecture Studio(Donald Bates と Peter Davidson)が、地元の Bates Smart とともに手がけた。

建築は、脱構築主義の語彙で組まれている。角度をずらして折れ曲がる幾何学、垂直に立ち上がる「シャード(破片)」と呼ばれるガラスの塔、そして砂岩・亜鉛・ガラスを風車状のパターンで貼り合わせた、迷彩のようなファサード。整然とした矩形を避け、広場そのものも傾斜と段差を持つ不定形の地形として設計された。この「割れた」造形は賛否を呼んだが、結果として、メルボルン市民が日常的に集まる場所として定着した。年間およそ九百万人が訪れると報じられている。

運営は、ビクトリア州政府が保有する Fed Square Pty Ltd が担う。公共の広場でありながら、専門の運営体が編成とキュレーションを行う体制である。

広告を持たない大画面

広場のスクリーンは、Transport ビルの北・東・南の三面にまたがって設置されている。報じられている仕様では、五階分の高さに、約八五〇枚の LED パネル、合計およそ四百万画素。二〇一八年には大規模に作り直され、より大きな「デジタル・キャンバス」として拡張された。画面は二十四時間、休みなく稼働する。

この画面の決定的な特徴は、商業広告を流さないことである。Fed Square が公開している映像コンテンツの公募要項には、応募作品に「商業的メッセージ」を含めてはならないと明記され、編成は Fed Square のスタッフがキュレーションする。つまりこの大画面は、広告枠を売って収益を上げる装置ではなく、公共がコンテンツを選び、市民に向けて流す装置として設計・運用されている。

ここに、本誌がこれまで見てきた都市スクリーンとの決定的な違いがある。タイムズスクエアの看板群は、二十三時間五十七分を広告に充て、三分だけアートに明け渡した。銅鑼湾の CVISION は、広告塔のままで、年に数えるほどの介入を時限で受け入れた。Federation Square のスクリーンは、その逆である。出発点から広告を持たず、公共のコンテンツが画面の主用途であり、商業はそもそも入ってこない。広告のなかにアートを差し込むのではなく、広告のない面に何を映すかを最初から問うている。

fig.002Rafael Lozano-Hemmer《Solar Equation》(2010)。Light in Winter フェスティバルの委嘱で、太陽を一億分の一に縮小した巨大な球体が Federation Square 上空に係留され、五台のプロジェクタで太陽表面の数理シミュレーションが投影された。Rafael Lozano-Hemmer, Solar Equation (2010). Commissioned for The Light in Winter, a giant sphere — the Sun scaled down 100 million times — was tethered above Federation Square, animated by five projectors running live mathematical simulations of the solar surface.© Rafael Lozano-Hemmer / Antimodular Researchsource

集まる場所のための編成

Federation Square のスクリーンと広場は、何を映してきたか。一つは、人が集まる理由としての中継である。AFL のグランドファイナル、全豪オープン——本来チケットを持つ者だけが見られる出来事を、広場の大画面が無料で開き、何万人もの市民が同じ瞬間を共有する。スポーツの中継は、広場を一時的なスタジアムに変える。

もう一つが、アートの委嘱である。二〇〇七年に始まった冬の光のフェスティバル「The Light in Winter」は、毎年この広場に作品を呼び込んできた。二〇一〇年の Rafael Lozano-Hemmer《Solar Equation》、二〇一三年の Ramus《Helix Tree》、二〇一四年の Asif Khan《Radiant Lines》。冬のメルボルンの広場に、光の作品が一点、立ち上がる。

近年は、先住民のプログラムも広場の中心に置かれている。二〇二四年六月、RISING フェスティバルと Fed Square が共同で展開した《The Blak Infinite》は、Kimberley Moulton(ヨルタ・ヨルタ)と Kate ten Buuren(タウングロン)のキュレーションによる大規模なインスタレーションと新作委嘱で広場を包んだ。連邦の百周年を記念して作られた広場が、その連邦以前から続く先住民の表現の場として編成し直される——公共のスクリーンと広場が、誰のために何を映すかという問いに、更新され続ける答えを返している。

広場にはまた、ACMI(Australian Centre for the Moving Image、オーストラリア国立の動画文化博物館)が、開業と同じ二〇〇二年から入っている。映画・テレビ・ゲーム・デジタルアートを横断する国立の機関が広場に同居していることは、Federation Square が単なる集会の広場ではなく、動く画像の文化そのものを抱える場所であることを示している。

fig.003Federation Square とは何かを紹介する公式映像。脱構築主義の砂岩とガラスの建築に囲まれた、不定形の市民広場。An official film on what Federation Square is — an irregular civic plaza ringed by deconstructivist sandstone-and-glass architecture.© Fed Squaresource

広場を守るということ

この公共性は、一度試されている。二〇一七年、広場の一棟(Yarra ビル)を取り壊して Apple の旗艦店を建てる計画が持ち上がった。商業施設のために公共の広場の一部を明け渡すこの提案は、強い反対を呼び、二〇一九年八月、Federation Square はビクトリア州の遺産登録(Victorian Heritage Register)に加えられ、計画は退けられた。広場が法的に保護されたことは、「広告を排した公共メディア」という運用が、たまたまの方針ではなく、市民が守るべき価値として位置づけられたことを意味する。

商業の論理は、人の集まる場所に絶えず流れ込もうとする。最も人通りの多い広場の最も大きな画面は、広告媒体として見れば最高の在庫である。Federation Square がそこに広告を入れないという選択を二十年以上維持できているのは、それが州政府の所有する公共資産であり、運営体が編成権を握り、そして市民がその公共性を守る意志を示してきたからである。

会(KAI)— 集いの中に点される画面

本誌が「会」と呼ぶカテゴリは、人が集う場としてのスクリーンを扱う。Federation Square は、その純粋形に近い。広場という空けられた「間」——傾斜と段差を持つ不定形の地形が、特定の用途を強制せず、人々が思い思いに滞留できる余白として設計されている。その余白に、大画面が一点の焦点を与える。

山水画における点景は、風景のなかの小さな存在が、周囲の空間に意味と方角を与えるという概念だった。Federation Square のスクリーンは、広場という公共の「間」のなかに点される、大きな一点の点景に近い。グランドファイナルの夜には、その一点に向かって何万人もの視線が集まり、広場は一時的に一つの方向を持つ。光のフェスティバルの夜には、Lozano-Hemmer の太陽が空に浮かび、人々はその下に散らばって見上げる。先住民のプログラムの会期には、広場そのものが別の物語に編成し直される。

何を画面に映すかという問いに、Federation Square は「集まる人々のための、広告ではないもの」と答え続けてきた。商業のスクリーンが街路を埋めるなかで、広告を持たない大画面を公共のキュレーションで二十年以上運用するという選択は、それ自体がひとつの編集的な意思表示である。広場は誰のものか、その画面は誰のために光るのか——Federation Square は、その問いに対する、いまのところ最も持続している答えの一つである。

出典

  1. fig.001Your new digital experience at Federation Square — Fed Square(公式 YouTube)
  2. fig.002Rafael Lozano-Hemmer — Solar Equation(作家公式)(2010)
  3. fig.003What is Federation Square? — Fed Square(公式 YouTube)
  4. [4]Federation Square — History & Design(公式)
  5. [5]See your video content on the Big Screen at Fed Square(公募要項・商業メッセージ禁止)
  6. [6]Federation Square LED Wall(仕様)— Fredon
  7. [7]Public Art Commissions — Fed Square
  8. [8]The Blak Infinite(RISING × Fed Square、2024)— Fed Square(2024-06)
  9. [9]ACMI — History of ACMI (2002–09)
  10. [10]Federation Square — Wikipedia
  11. [11]ACMI (museum) — Wikipedia
  12. [12]20 defining moments in the history of Fed Square — Time Out Melbourne

運用カルテ

運営主体
Fed Square Pty Ltd(ビクトリア州政府保有)
掲出地
メルボルン
編成モデル
オペレーター委嘱 — 公共広場の自主編成。商業広告は流さない。ACMI など同居する文化機関のプログラムと連動
稼働リズム
24時間稼働。スポーツ中継・光フェスティバル・先住民プログラム等を季節で編成
物理仕様
5階分の高さ、約850枚のLEDパネル・約400万画素(2018年更新)
運用開始
2002
稼働状態
稼働中 — 2019年にビクトリア州遺産登録。広告を排した公共運用が法的に保護される

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