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Cases事例

広告塔を彫刻にする — Sunset Spectacular、West Hollywood の64フィート

Turning the Billboard into Sculpture: the 64-Foot Sunset Spectacular in West Hollywood

No.
140
種別
事例
著者
SCREENS LANDSCAPE 編集部
日付
読了
9分

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Sunset Boulevard を西へ走ると、看板の列の中に、ひとつだけ「建築」が立っている。棒の上に載った長方形の看板ではない。傾いた結晶のような塊が、地面から立ち上がっている。表面には映像が流れ、足元には広場がある。ここは 8775 Sunset Blvd、ハリウッドの Sunset Strip。名を Sunset Spectacular という。

看板は普通、二つの部分でできている。支える構造と、見せる面。支柱は見ないことになっており、見るべきは面のほうだ、というのが暗黙の約束である。Sunset Spectacular はこの約束を破る。構造と面を分けず、装置の全体をひとつの彫刻にした。高さ64フィート、約19.5メートル。この記事が扱うのは、画面を収める「器」そのものの物理的な特異性である。

棒の上の看板を疑う — コンペと設計

Sunset Spectacular は、審査制の設計コンペティションから生まれた。2016年、City of West Hollywood は Sunset Strip の一角に立つ新しいビルボードの設計を公募した。応募したのは世界的な建築家たちである。Zaha Hadid、Gensler もそこに名を連ねた。市が最終的に選んだのは、Orange Barrel Media(OBM)と、ロサンゼルスを拠点とする Tom Wiscombe Architecture のチームだった。

Wiscombe が提示した設計言説は、既存のビルボードへの明確な批判を含んでいた。彼は「sign-on-a-stick」——棒の上に看板を載せただけの型——からの脱却を掲げた。参照されたのは、鐘楼や時計塔といった都市の市民的アーキタイプである。看板を、通り過ぎるだけの広告装置ではなく、街の中に位置を占める建築的な存在へと引き上げようとした。物理的な Sunset Strip に立つと同時に、ソーシャルメディアの中にも像を結ぶ、二重の存在という構想でもあった。

その形態は、公式ポートフォリオの記述によれば四つの巨大な部分でできている。3枚の外殻面と、その内側に入れ子になった、傾いた「テッセラクト(tesseract)」。テッセラクトとは四次元の立方体を三次元に投影した図形で、Wiscombe はこの幾何を建築の芯に据えた。全体は人間スケールの部材の集積ではなく、巨大なパズルピースのような塊——彼の言葉で「chunks」——に分割されている。この分割によって、少ない人的労働で積み上げ組立てができる。足元の地面は「魔法の絨毯のように」めくれ上がり、都市の中に、入れ子になった小さな世界を画定する。

コンペの発表は2016年、着工は2019年、竣工は2021年。地面から結晶が立ち上がるまでに、五年の時間がかかった。

広告が市民に還る — 官民パートナーシップ

Sunset Spectacular は、2021年5月に開業した。事業の主体は OBM 単独ではない。City of West Hollywood との官民パートナーシップ(public-private partnership)として開発された。ここに、この装置のもうひとつの特異性がある。

Sunset Strip は、ハリウッドの看板文化の聖地である。そこでは、新規のデジタル・ビルボードを立てる権利が、10年以上にわたって凍結されていた。Sunset Spectacular は、その凍結を解いて実現した、Strip では10年以上ぶりの新規デジタル OOH である。権利の解凍は、単なる規制緩和ではなかった。市民的価値との交換として設計されている。市は新しい看板の設置を許す代わりに、そこから生まれる収益を受け取る。そして市はそれを、ロサンゼルスの文化・クリエイティブコミュニティに再投資する。広告塔が、街の文化を養う仕組みになっている。

この設計思想を、Wiscombe 自身が端的に語っている。

Sometimes we think of media as being attached to buildings, and in this case, we're going to great lengths to integrate the media into a kind of overall civic experience.

Orange Barrel Media — Sunset Spectacularsource

メディアは建築に「取り付けられる」もの——そう考えられがちだが、ここでは逆に、メディアを市民的な体験の全体へと統合しようとしている。Wiscombe の言う「civic experience」は、彼が参照した鐘楼や時計塔のアーキタイプと響き合う。かつて塔は、街の時間を告げ、人々を広場に集めた。Sunset Spectacular は、その市民的な塔の機能を、映像と広告と広場によって現代に置き換えようとしている。装置は、東西を向く2面のフルモーション・デジタルディスプレイと、文化プログラムで活性化される内部空間、そして基部の多目的公共プラザを持つ。看板であると同時に、集まる場所でもある。

同じ画面に Nick Cave が流れる — Arts on Sunset

この装置の要にあるのが、「Arts on Sunset」と名づけられた継続的なパブリックアート・プロジェクトである。OBM が開発し、ロサンゼルスを拠点とするインディペンデント・キュレーター Diana Nawi がキュレーションを担う。Nawi は Prospect.5 New Orleans の元共同芸術監督であり、現代美術のキュレーションを本業とする人物だ。広告塔のアート枠を、専門のキュレーターが編集する——この体制そのものが、Sunset Spectacular の性格を規定している。

ローンチ期に委嘱された作家の顔ぶれを見れば、その本気の度合いがわかる。The Propeller Group。Nick Cave——2021年の晩春にデビューした。Pipilotti Rist は、MOCA での大規模なサーヴェイ展にあわせた新作を寄せた。Catherine Opie と Cauleen Smith は、ともに2021年秋にデビューしている。いずれも国際的に活動する現代美術の作家である。彼らの映像が、東西のディスプレイに流れる。

重要なのは、これらのアート作品が広告と同じ画面を分け合うという点だ。Sunset Spectacular のディスプレイは、広告を映す時間と、アートを映す時間を、時間軸に沿って持つ。広告枠の売上が市に還り、その同じ面に Nick Cave や Pipilotti Rist が流れる。広告とアートの二重の編成が、装置の設計段階から——コンペの構想の時点から——組み込まれている。これは一過性のアート企画ではなく、恒久的な「広告塔のアート枠」という編成モデルである。街の商業インフラの中に、アートのための時間があらかじめ確保されている。

器としてのビルボード — 編集論考と展望

fig.001施工に携わった電気工事会社 BESCO Bauer による建設記録。巨大なパズルピースのような部材が、Sunset Strip の空に組み上がっていく。Build documentation by electrical contractor BESCO Bauer: oversized puzzle-piece chunks assembled into the West Hollywood sky.© BESCO Bauer Electric Servicessource

装置がどう作られたかを見ると、Wiscombe の言説が絵空事でないことがわかる。施工に携わった電気工事会社 BESCO Bauer の記録映像には、巨大なパズルピースのような部材が、Sunset Strip の空に少しずつ組み上がっていく様子が収められている。人間スケールの小さな部材を無数に積むのではなく、「chunks」——塊——を吊り上げて嵌め込んでいく。この組立ての論理は、テッセラクトという幾何の芯から、施工現場の一手までを一貫して貫いている。彫刻としてのビルボードは、彫刻としての工程を持っている。

Sunset Spectacular が示すのは、ビルボードの「器」を彫刻化するという系譜である。画面は普通、それを支える構造から切り離され、構造は透明であることを求められる。Wiscombe はこの分離を拒み、支えるものと見せるものを一体の塊に鋳直した。棒の上の看板が、傾いた結晶に置き換わる。街の風景に対して、この置き換えは決定的な違いを生む。透明であるべき支柱は、見られるべき建築になり、通り過ぎるだけの面は、立ち止まる広場を足元に得る。

そしてこの器は、空いた時間を持っている。広告と広告のあいだに、アートのための時間が点る。商業インフラの谷間に恒常的なアート枠を差し込むこの構造は、街の風景の中に、小さな意味の現れを点す仕掛けである。器がまず場所と時間を空け、その空いた場所に、キュレーターが編んだ作品が点景として立ち上がる。Sunset Strip という看板の海の中で、Sunset Spectacular は、看板でありながら看板の外へ出ようとする一点として立っている。広告塔を彫刻にするとは、器そのものを問い直すことであり、その問い直しの先に、街を生かす小さな現れの場所が用意されている。

出典

  1. fig.001Building Americas Coolest Billboard! The Sunset Spectacular — BESCO Bauer Electric Services(YouTube)
  2. [2]Sunset Spectacular — Orange Barrel Media
  3. [3]SUNSET SPECTACULAR — Tom Wiscombe Architecture
  4. [4]Tom Wiscombe Architecture Wins Sunset Spectacular Billboard Competition — ArchDaily(2016)
  5. [5]Orange Barrel Media and The City of West Hollywood Launch The Sunset Spectacular — OOH TODAY

運用カルテ

運営主体
Orange Barrel Media × City of West Hollywood(官民パートナーシップ)
掲出地
ウェスト・ハリウッド
編成モデル
オペレーター委嘱 — 広告収益は市に還流し文化コミュニティへ再投資。アート枠「Arts on Sunset」は OBM が開発し Diana Nawi がキュレーション
稼働リズム
常設。広告とアートを同一画面で時分割編成
物理仕様
高さ64フィート(約19.5m)の彫刻的タワー。東西2面のフルモーションLED、内部空間と基部の公共プラザ。設計 Tom Wiscombe Architecture
運用開始
2021
稼働状態
稼働中

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