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Artists作家

建築に夢を見させる — Refik Anadol とデータが流れるファサード

Making Architecture Dream: Refik Anadol and the Data-Painted Facade

No.
125
種別
作家
著者
SCREENS LANDSCAPE 編集部
日付
読了
12分

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2018年の秋、ロサンゼルスのダウンタウンで、一棟の建築が夜ごとに表情を変えた。フランク・ゲーリー設計のウォルト・ディズニー・コンサートホール——うねるステンレスの外皮で知られるあの建物の表面に、9月28日から10月6日までの毎晩、抽象的な映像の渦が流れ込んだ。流体のように波打つ光、突然ほどけて粒子になる色面、ふたたび集まって面になる輝度。建物の前の歩道や芝生に立った人々が見上げていたのは、広告でも、プロジェクションマッピングのショーでもなかった。それは、ロサンゼルス・フィルハーモニックという楽団が百年かけて蓄えた記録——四十五テラバイトに及ぶ写真・音声・映像・メタデータ——を、機械学習に通して「見直させた」結果の映像だった。作品名は《WDCH Dreams》。建築が、自らの記憶を素材に夢を見る、という主題だった。

この夜の光景を組み立てたのが、トルコ出身でロサンゼルスを拠点とするメディアアーティスト、Refik Anadol(レフィク・アナドール)である。本稿は、彼が一貫して取り組んできた「データが流れる表面」という主題を、街路に面したファサードの上で読み解く試みである。美術館の壁の中ではなく、都市の建物の外皮の上で、データはどのように一個の「点景」になりうるのか。

データを絵具にする

Anadolは1985年、イスタンブールに生まれた。後にUCLAのデザイン・メディア・アーツ専攻で修士を取得し、現在も同地に拠点を置く。彼が自らの方法を語るときに繰り返し用いるのが、「AIデータ・ペインティング」「データ・スカルプチャー」という言葉である。膨大なデータセットを一次素材として、ニューラルネットワークを協働者のように扱い、その出力を映像や立体に結晶させる——絵具のかわりにデータを、筆のかわりに機械の学習過程を置く、という比喩がその核心にある。

この方法を一貫したシリーズに育てたのが、2016年に始まる《Machine Hallucinations》である。集合的な視覚記憶——ある都市の、ある自然現象の、ある収蔵庫の、膨大な画像の堆積——を学習させ、機械が「見たことのないイメージ」を生成していく一連の作品群だ。重要なのは、ここで生成されるものが具体的な何かの再現ではなく、データの分布そのものが運動として可視化される点にある。雲のように、あるいは水のように、輪郭を持たないまま流れ続ける画面。それが彼の表現の基調になった。

同じ2018年、彼は故郷イスタンブールでも《Bosphorus: Data Sculpture》を発表している。トルコ国家気象局が提供する海面のレーダー観測データ——三十日ぶんの海の動き——を、十二メートル幅のLEDウォールの上で、波打ち崩れ続ける流体の塊として可視化した作品である。コンサートホールの外皮に映された夢と、ギャラリーのLED壁に立ち上がる海。媒体は違っても、主題は通底している。データという目に見えないものに、表面を与えて街や空間のなかに立ち上がらせること。

外皮の上で

fig.001《WDCH Dreams》(2018年)。LAフィルの百周年を記念し、楽団のデジタル・アーカイブを機械学習に通した映像が、ゲーリー設計のステンレス外皮に投影された。四十二台の大型プロジェクター、総計50Kの解像度。WDCH Dreams (2018). For the LA Phil's centennial, footage trained on the orchestra's digital archive was projected onto Gehry's stainless-steel skin via 42 large-scale projectors at a combined 50K resolution.© Los Angeles Philharmonic / Refik Anadol Studiosource

《WDCH Dreams》で投影に用いられたのは、四十二台の大型プロジェクターである。総計50Kの解像度、八チャンネルの音響、百二十万ルーメンに及ぶ輝度が、ゲーリーの曲面をひとつの画面に変えた。素材となったのは、五十八万点を超える画像ファイル、千八百点超の映像、一万七千点超の音声を含む楽団の全アーカイブで、これを複数の機械学習モデルが解析し、無数のデータ点へと分解したうえで再構成した。

ここで起きていることは、プロジェクションマッピングの常套——建物の凹凸に合わせて絵を貼り付け、立体を錯覚させる手法——とは似て非なるものだ。Anadolが投影したのは、建物に「貼る」絵ではなく、建物が「思い出して」生成したかのような流動だった。ゲーリーの外皮が持つ曲面の物理性と、機械が生成する流体的な映像とが、互いに相手の輪郭を溶かしあう。建築は画面になり、画面は建築の記憶を映す。

人が夢を見るとき、心は記憶を処理して、イメージとアイデアの新しい組み合わせをつくる。コンサートホールに同じことができるだろうか。

Refik Anadol Studiosource

この問いの立て方そのものが、彼の作品の射程を示している。建物に夢を見させる、という発想は、建築を固定された容器としてではなく、データを蓄え・処理し・吐き出す一個の主体として扱う態度に支えられている。

街路に開く三分間

ファサードという主題は、2022年のバルセロナでさらに先鋭化した。アントニ・ガウディ設計の世界遺産、カサ・バトリョの有機的な外壁に、Anadolは《Living Architecture: Casa Batlló》を投影した。ガウディのスケッチ、建物の歴史的アーカイブ、学術資料、そして公開されている無数の写真——およそ十億点の画像から成るデータセットを学習させ、さらにバルセロナの気候データをリアルタイムに取り込んで生成した映像が、波打つ石の表面を流れた。5月の数夜、パセジ・ダ・グラシアの通りには五万人近い人々が集まったと記録されている。チケットを持つ館内の鑑賞者ではなく、通りを歩いていて足を止めた人々が、その大半だった。

ここに、都市のファサードに映されるデータ・ペインティングの固有性がある。美術館の展示室では、鑑賞は意志を持って訪れた者のものだ。しかしガウディの壁面に流れる映像は、通りすがりの視線に対して開かれている。買い物の途中で、帰宅の道すがら、ふと見上げた先に、建物が一時的に別のものへと変わっている——その偶発的な遭遇こそが、街路のファサードでしか起こりえない経験である。山水画において、風景に小さく描き込まれた人影や舟が景色全体に意味を点すように、夜の建物の上を流れるデータの渦は、見慣れた街区に一夜の「点景」を生む。

美術館という対照項

fig.002《Unsupervised — Machine Hallucinations — MoMA》(2022–2023年)。MoMA の収蔵作品 138,151 点のメタデータを StyleGAN2 で学習させ、ガンド・ロビーの高さ約 7.3 メートルの LED 壁面に、館の「記憶」が絶えず変容し続ける映像として展示された。Unsupervised — Machine Hallucinations — MoMA (2022–2023). Metadata from 138,151 works in MoMA's collection, trained with StyleGAN2, shown on a roughly 7.3-metre LED wall in the Gund Lobby as the museum's ever-shifting 'memory.'© Refik Anadol Studio / The Museum of Modern Artsource

街路の外皮とは対照的に、Anadolの仕事は美術館の内部にも深く食い込んでいる。2022年から2023年にかけてニューヨーク近代美術館(MoMA)のガンド・ロビーに設置された《Unsupervised》は、その到達点のひとつだ。MoMAの収蔵作品13万8151点ぶんのメタデータをStyleGAN2で学習させ、館がみずからの収蔵史を機械の目で「見直す」映像を、高さ約七・三メートルのLED壁面の上で絶えず生成し続けた。常設展示の名画が並ぶ館の入口で、その同じコレクションが輪郭を失い、別のものへと変容し続ける——美術館が自らを素材に夢を見る、という《WDCH Dreams》の主題が、今度は室内のスクリーンの上で反復された。

fig.003《Echoes of the Earth: Living Archive》(2024年、ロンドン・サーペンタイン・ノース)。自然界のデータを学習させた近作。美術館の室内空間を、流動する生態系の像で満たす。Echoes of the Earth: Living Archive (2024, Serpentine North, London). A recent work trained on data of the natural world, filling the gallery interior with flowing images of an ecosystem.© Refik Anadol Studiosource

室内のLEDと街路のファサード。この二つの場の往復が、Anadolの作品を読むうえで重要な軸になる。室内の壁面は、鑑賞の制度——入場、滞在、対峙——を前提とする。一方、建物の外皮は、その制度の外側にいる通行人をも巻き込む。同じ「データが流れる表面」という技術的核を持ちながら、置かれる場所によって作品の社会的な意味はまったく異なるものになる。香港のM+ファサードが、建築の外皮を都市に向けたスクリーンとして恒常的に運用しているように(建築が画面になるとき)、外皮の上のデータ・ペインティングは、美術館の壁とは別の経済と別の視線のなかに置かれている。

スクリーンそのものが建築になるとき

そしてファサードという主題は、2023年9月、ラスベガスで極点に達した。球体構造の外周をほぼ五十八万平方フィートのLEDで覆った「Sphere」——その外装「Exosphere」は、世界最大のLEDスクリーンとして知られる。Anadolは、この外皮に映像を映した最初のアーティストになった。《Machine Hallucinations: Sphere》である。NASAのジェット推進研究所と協働した宇宙の画像、三億点を超える自然界の写真、そしてラスベガスの風と気圧をリアルタイムに取り込んだ生成映像が、夜のハイウェイから見える巨大な球の上を流れた。

ここでは、《WDCH Dreams》で起きていた「建築が画面になる」という運動が、設計の段階から反転している。Sphereは既存の建物に映像を投影したのではなく、外皮そのものがスクリーンとして構想された建築である。建物が画面を持つのではなく、画面が建物の形をしている。Anadolのデータ・ペインティングは、この球の上で、表面と建築と映像の区別が最初から存在しない状態に到達した。

表面が画面になる、その一瞬

Anadolの一連の仕事を、街路のファサードという視点から並べ直すと、ひとつの主題が浮かび上がる。それは、建築の表面が一時的に画面へと変わる、その移行の瞬間そのものを作品化している、ということだ。ゲーリーの曲面も、ガウディの石壁も、ラスベガスの球も、ふだんは建築として——構造として、輪郭として、確固たる物として——そこにある。だが夜のある時間、データが流れ込むと、その確固たる表面が一瞬、輪郭を手放して流動になる。

この移行は、間(MA)の概念で読むこともできる。建物が建築であることをやめ、まだ完全には画面になりきっていない——その宙吊りの、空けられた時間。Anadolのデータ・ペインティングは、その空隙に意味を点していく。山水画の点景がそうであるように、街区の風景そのものを描き替えるわけではない。見慣れた建物の上に、夜ごと一過性のイメージを点すことで、街の景色に別の読み筋を与える。朝になれば、ファサードはまた何でもない建築の表面に戻っている。

データという、本来は目にも触れにくく、街路の風景とは無縁なものが、建築の外皮の上で一夜だけ可視の流動になる。Anadolの仕事が示しているのは、巨大な計算と巨大な表面が出会うとき、それが必ずしもスペクタクルの誇示には終わらない、という可能性である。むしろ最良の瞬間において、それは街の風景にそっと一点を加える——通りすがりの誰かが見上げ、足を止め、また歩き出すための、小さな点景として。

出典

  1. fig.001WDCH Dreams: Relive the Epic Performance — LA Phil
  2. fig.002Refik Anadol: Unsupervised — The Museum of Modern Art
  3. fig.003Works — Refik Anadol
  4. [4]About Refik Anadol — 公式サイト
  5. [5]WDCH Dreams — Refik Anadol Studio
  6. [6]Bosphorus: Data Sculpture — Refik Anadol Studio
  7. [7]Living Architecture: Casa Batlló — Refik Anadol
  8. [8]Refik Anadol dazzles 65,000 people with his mapping on the façade — Casa Batlló Contemporary
  9. [9]Refik Anadol. Unsupervised — Machine Hallucinations — MoMA. 2021–2022 — MoMA Collection
  10. [10]Refik Anadol, First to Transform Sphere's Exterior Into Immersive Canvas — Sphere Entertainment Co.

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