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天井を空にする — 見上げるスクリーンの系譜

Making a Sky of the Ceiling: A Lineage of Screens Overhead

No.
133
種別
テーマ
著者
SCREENS LANDSCAPE 編集部
日付
読了
14分

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ラスベガス、フリーモント・ストリート。日が落ちて毎正時になると、頭上一面が光り出す。歩行者天国の上空、地上から約27メートルの高さに架けられた全長1,375フィート(約419メートル)のかまぼこ型スクリーンが、楽曲に合わせて一斉に明滅を始める。人々は歩みを止め、首を反らし、夜空のあったはずの場所を見上げる。数分間、街路の天井が空になる。

街なかのスクリーンといえば、ふつう私たちは壁を思い浮かべる。交差点に立つビジョン、ビルの外装を覆うLEDファサード、駅構内に並ぶサイネージ——いずれも垂直の面に映る画面である。だが都市には、もうひとつ巨大な、そしてほとんど誰も使っていない面がある。頭上だ。天井、天蓋、空。日常のなかで私たちが意識から外しているこの面に画面を架けたとき、サイネージは「見るもの」から「見上げるもの」へと姿を変える。

本稿は、この「見上げるスクリーン」の系譜をたどる。フリーモントを起点に、同じ設計者が北京の広場の上空に架けた巨大スクリーン、シカゴの吹き抜けに偽の空をひらいた天井、そしてエドモントンのロビーに吊られた、いまの天気を映す立体へ。四つの事例は、頭上という余白に光を点す方法が、興行のスペクタクルから常時流れる「気配」へと移ってきた半世紀の運動を描き出す。

路上に架けた天蓋

フリーモント・ストリート・エクスペリエンスは1995年に開業した。ダウンタウン・ラスベガスの五ブロックを歩行者天国とし、その上空全体をバレル・ヴォールト(かまぼこ)型のスクリーンで覆う——当時としては前例のない発想だった。設計したのはジェレミー・レイルトン。エンターテインメント・デザイン・コーポレーションを率い、ロサンゼルス夏季五輪やソルトレイクシティ冬季五輪の式典演出を手がけたライブ・スペクタクルの設計者である。

fig.001毎正時に上演されるビバ・ビジョンのライト・ショー。街路の天井がそのまま映像面になる。The Viva Vision light show, performed at the top of each hour. The ceiling of the street becomes the screen.Fremont Street Experiencesource

このスクリーン——ビバ・ビジョン——は段階的に更新されてきた。2004年の第二世代でおよそ1,250万個のLEDを擁する高精細パネルへと刷新され、2019年大晦日には3,200万ドルを投じた第三世代へと再び生まれ変わった。製造はイリノイ州のウォッチファイア・サインズ。約4,930万個のLED、1,640万を超えるピクセル、15,104×1,088の解像度、輝度5,000ニト、そして60万ワットの音響系。旧世代に比べ解像度は四倍、輝度は七倍に達した。

技術仕様の派手さは、しかしこの装置の本質ではない。フリーモントが発明したのは、画面を壁ではなく頭上に架けることで生まれる、ひとつの身体の構え方である。毎正時、6〜8分のショーが夜18時から深夜2時まで無料で上演される。人々は立ち止まり、首を上げ、足元に群れをつくる。スクリーンが街路を「通り過ぎる場所」から「滞留する場所」へと変える。それは時報のように街のリズムを刻み、見ず知らずの他人どうしが同じ方向を見上げる数分間を、定刻ごとに発生させる装置だった。

同じ作者、広場の天井

フリーモントの十二年後、レイルトンは同じ「頭上に架ける」発想を、地球の反対側の、まったく異なる都市文脈で再演する。北京のCBD(中心業務地区)、世貿天階(The Place)である。2007年にソフトオープンしたこの商業施設の中央には、二棟の建物をつなぐプラザの上空、地上約80フィート(六階相当)の高さに、全長250メートル・幅30メートルの巨大なLED天蓋が水平に吊られた。LEDパネルは台湾のオプトテックが供給し、総工費はおよそ2億5,000万人民元。開業時点でアジア最大級のスクリーンとされた。

フリーモントが「街路の屋根」だとすれば、世貿天階は「広場の天井」である。歩行者天国を覆うかまぼこ型の面に対し、こちらは商業プラザの上空に水平に張られた一枚の空。米国の歩行者天国型と、中国の超高層ビルに囲まれた商業プラザ型という、対照的な都市の器に、同じ設計者が同じ身振りを置いた。レイルトンが五輪式典で培ったスペクタクルの設計言語は、宇宙や空を主題とする映像ショーとして、北京の人工の天井に流れ込んだ。

二つのスクリーンは、頭上を「見上げて集まる場所」に変えるという一点で双子である。だがその後の系譜は、この興行型の天蓋とは別の方向へ枝分かれしていく。スペクタクルではなく、もっと静かな「空」を室内に持ち込む方向へ。

室内に空をひらく

2017年11月、シカゴのゴールドコースト。ミシガン・アベニューに面した七層の縦型商業施設「900 ノース・ミシガン・ショップス」が、約三十年を経た施設のリニューアルの中核として、天井に一本の巨大なデジタルの帯を得た。手がけたのはニューヨークを拠点とする体験設計スタジオ、ESIデザイン(NBBJのスタジオ)。クライアントはJMBリアルティである。

fig.002900 ノース・ミシガン・ショップスの天井に開いた「デジタルの天窓」。揺れる木々や鳥が、頭上の偽の空を流れていく。The 'digital skylight' opened across the ceiling of 900 North Michigan Shops — rustling trees and birds drift across a fabricated sky overhead.ESI Design (NBBJ)source

全長約190フィート(約58メートル)、面積およそ3,500平方フィートの超高精細LED(4ミリピッチ)を、十のセクションに分けて吹き抜けの天井に敷く。全フロアから見上げられるこの装置は、施設内部と外の空とを錯視的につなぐ「巨大な天窓(スカイライト)」として設計された。流れる映像は16Kで実写撮影されており、揺れる木々、移ろう空、地元の鳥たちが、だまし絵(トロンプ・ルイユ)として頭上に開ける。テナント名や商品は万華鏡のアニメーションへと変換され、広告的な情報が装飾の文法のなかに溶かし込まれる。

フリーモントや世貿天階が「定刻に群れを集める興行」だったのに対し、ここで起きているのは違う種類のことだ。900 ノース・ミシガンの天井は、ショーを上演しない。代わりに、揺れる木々や空が常時、気配のように流れ続ける。見上げる対象が「上演」から「環境」へと移っている。天井を空に偽装するこの身振りは、教会のフレスコ画が天井に天国を描いた長い伝統を、デジタルの映像で引き継ぐものとも読める。商業施設の吹き抜けという、本来は機能的な縦の空隙が、空を仰ぐための場所へと読み替えられている。

吊られた、いまの空

同じESIデザインが、その三年後に到達した地点が、本稿でもっとも示唆的な事例である。2020年2月、カナダ・エドモントンのダウンタウン。オフィスタワー「HSBCプレイス」のロビーに、市内初のデジタルアート常設インスタレーション「Prisms」が据えられた。

fig.003ロビーの天井から吊られた六つの五面体。エドモントンの風景・夜空・海の映像に、時刻・季節・気象のライブデータが溶け込む。Six five-sided prisms suspended from the lobby ceiling. Imagery of Edmonton, the night sky and the ocean mixes with live data — time of day, season and weather.ESI Design (NBBJ)source

天井から吊られているのは、各260平方フィートの巨大な五面体(5-sided)のLEDボックスが六つ。床から天井までのLED柱がこれを補い、全面ガラスのファサード越しに、街路からも見える。「目的のない人がわざわざ訪れない空間」だったオフィスロビーを、"訪れたくなる"場所へと変えるための装置だった。

二つの点で、Prismsは天井スクリーンの系譜を一歩進めている。第一に、平面ではなく立体であること。五面体に深度の錯覚を持たせ、あらゆる角度から立体として成立させるために、ESIはビデオゲームとVRの制作技法を映像に転用した。第二に、映し出されるものが「いまの状態」であること。エドモントンの風景や夜空、海のイメージに、時刻・季節・そして気象のライブデータが溶け込む。900 ノース・ミシガンの天井が「偽の空」を流したのに対し、Prismsの頭上は、外で実際に進行している時間と天気を映す。錯視の空から、データに応答する空へ。気象に応答する画面という主題については、別稿でも論じている。

興行から気配へ

四つの事例を一本の線で結ぶと、ひとつの移動が見えてくる。

フリーモントと世貿天階——ジェレミー・レイルトンの二つの天蓋——は、興行としてのスクリーンである。定刻にショーを上演し、群れを足元に生成し、見ず知らずの他人どうしを同じ方向へ向かせる。ここで頭上の画面は、社会的な出来事を発生させる装置として働く。一方、ESIデザインの二つの天井——900 ノース・ミシガンとPrisms——は、環境としてのスクリーンである。ショーを持たず、空や木々や天気を気配のように流し続ける。前者が「あつまり」を成立条件とするなら、後者は「きざし・気配」を主題とする。

この移動は、技術の進歩の物語ではない。頭上という面に何を点すか、という編集判断の変化である。スペクタクルは強い。だが強い光は、毎時の儀式としてしか持続できない。常時頭上にある「気配としての空」は、弱い。けれどもそれは、人がその場所で過ごす時間そのものに寄り添う。一度きりの上演ではなく、繰り返し視野に入り、季節や天気とともに変わる頭上——それは見る者の記憶に層をつくる、別種の画面である。

本誌がたびたび立ち返る古語に、「点景」がある。山水画において、広大な余白のなかにぽつりと描き込まれた人物や小舟が、風景を生きたものに変える——その小さな存在を指す言葉だ。「間(ま)」が空間を空ける概念なら、「点景」はその空いた場所に意味を点す概念である。

都市において、頭上はおそらく最大の「間」である。誰も使わず、誰も見ない、空けられたままの余白。フリーモントの光、世貿天階の天井、シカゴの偽の空、エドモントンの吊られた立体は、いずれもこの余白に意味を点す試みだった。建築に統合され、頭上に架けられたこれらの画面は、街路や広場やロビーという風景のなかで、見上げた一瞬にだけ立ち上がる点景として機能する。

展望

見上げるスクリーンの系譜は、まだ若い。壁面の画面が都市の常識になったのに比べ、頭上の面はようやく実装の試行が積み重なり始めた段階にある。空港、駅のコンコース、地下街、アトリウム——人が自然に上を向く場所は、都市のなかに思いのほか多い。そこに架けられる画面が、フリーモント的なスペクタクルへ向かうのか、ESI的な気配へ向かうのかは、それぞれの場所が抱える時間の質によって決まるだろう。

確かなのは、頭上が「空けられた間」であり続けるかぎり、そこに点景を置こうとする試みは続く、ということだ。天井を空にするという身振りは、フレスコ画から人工の天蓋まで、人が建物の内側に天空を求めてきた長い欲望の、現在における一形態にすぎない。これらの画面が、それぞれの街の時間とともにどう育っていくかは、なお開いた問いである。


出典

  1. fig.001Viva Vision Light Show — Fremont Street Experience(公式)
  2. [2]Fremont Street Experience Unveils Stunning New 3D Graphics And $32 Million Upgraded Viva Vision Canopy — PR Newswire(2019-12)
  3. [3]Watchfire Signs Selected for Las Vegas Fremont Street Experience Renovation — Watchfire Signs
  4. [4]Fremont Street Experience — Wikipedia
  5. [5]LED skyscreen creates unique ceiling for The Place — LEDs Magazine(2007)
  6. [6]How I Did That: The Great Screen Of China(Jeremy Railton)— Live Design
  7. [7]Jeremy Railton: A designer’s notebook — InPark Magazine
  8. fig.002900 North Michigan Shops — ESI Design (NBBJ)
  9. [9]900 North Michigan Shops Makeover By ESI Design — The Drum
  10. fig.003Prisms at HSBC Place — ESI Design (NBBJ)
  11. [11]Edmonton Office Tower Adds Prisms — LED Light Boxes Suspended Over Lobby — Sixteen:Nine(2020-11-23)
  12. [12]The Place Beijing — Sky Screen(公式)

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