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Cases事例

国土という展示室 — DEMO Festival、24時間のスクリーン占拠

The Country as Gallery: DEMO Festival and a 24-Hour Takeover of the Screen Network

No.
117
種別
事例
著者
SCREENS LANDSCAPE 編集部
日付
読了
13分

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ある一日、オランダの駅や空港、ショッピングセンター、高速道路沿いの大型ビジョンに、いつもの商品広告が流れない。代わりにそこを満たすのは、世界中のスタジオと若いデザイナーが制作したモーションデザインである。文字が歩き出し、図形が増殖し、抽象的な色面が呼吸する。通勤客は、改札を抜ける数秒のあいだに、自分が広告ではない何かを見ていることに気づく。これが DEMO Festival ——Design in Motion Festival —— が一年に一度、街に起こす出来事である。

fig.0012019年、アムステルダム中央駅。構内のデジタルサイネージが24時間、モーションデザインの展示面に切り替わった。DEMO の出発点となった光景。Amsterdam Central Station, 2019. For 24 hours the station's digital signage became a surface for motion design — the festival's point of origin.© Studio Dumbar/DEPT®source

本誌がこれまで辿ってきた事例の多くは、ひとつの建築、ひとつの装置、ひとつの広場に紐づいていた。DEMO はそうではない。それは特定の場所を持たない。フェスティバルの会場は、ある国の広告配信網そのものであり、そのネットワークを一日だけアートが占有する。スクリーンが点在する経路 ——路—— が、まるごと展示室に反転する。本稿は、この「路としての展示」という稀有なかたちを読み解く試みである。

一日だけの反転

DEMO の第一回は2019年11月、アムステルダム中央駅で開かれた。構内のデジタルサイネージを24時間にわたって占有し、253組のデザイナー、37カ国から集められたモーション作品を流し続けるという企画である。仕掛けたのは、ロッテルダムを拠点とするデザインスタジオ Studio Dumbar/DEPT®。広告メディア事業者 Exterion Media NL との協働によって、商業掲出枠の一日を文字どおり明け渡してもらうことで成立した。

その発想の核心は単純で、しかし倒錯的である。広告のために設計され、広告を流すために運用されているスクリーン群を、広告のためにではなく、モーションデザインという表現そのもののために使う。そこに新製品の訴求はなく、ブランドのロゴもない。あるのは、作り手の名前と、数秒から十数秒の動く画だけだ。広告枠という器の中身を、丸ごと入れ替えてしまう。

fig.002DEMO の舞台裏。世界最大のモーションデザインの祭典が、どのように編まれているかを Studio Dumbar/DEPT® が語る。The making of DEMO. Studio Dumbar/DEPT® on how the world's largest motion design festival is assembled.© Studio Dumbar/DEPT®source

この反転が成り立つのは、現代の屋外ビジョンが、もはや一枚の看板ではなく、配信されるネットワークの末端だからである。かつての屋外広告は、ポスターを貼り替えるという物理作業だった。DOOH(デジタル・アウト・オブ・ホーム)と呼ばれる現在の屋外メディアは、中央から配信されるコンテンツを各スクリーンが受信して再生する。配信の中身を差し替えれば、街中のスクリーンが同時に別のものを映す。DEMO は、この配信インフラの構造を逆手に取って、一日だけの巨大な同時展示を実現した。

国土をめぐる配信網

2019年の駅構内から、DEMO はすぐに国土規模へと拡張する。2022年の第二回では、オランダ国内の約5,000面のスクリーンが舞台となった。駅や地下鉄、ショッピングセンター、スキポール空港をはじめとする空港群、高速道路沿いのビルボード、駐車場 ——人が移動する経路のほぼあらゆる結節点に、モーションデザインが立ち現れた。

これを可能にしたのは、12社にのぼる DOOH 事業者の協働である。JCDecaux、Clear Channel、Ocean Outdoor、blowUP media、Schiphol Media、NS Stations ——通常であれば互いに広告在庫を競合させている事業者たちが、同じ一日のために自社ネットワークを開放した。DEMO の本質は、ここに最もよく現れている。それは作品でも装置でもなく、ふだんは分断されている配信網を一時的に束ねる「編成」の企てなのだ。

fig.0032022年、オランダ全土へ。約5,000面のスクリーンが連動し、国そのものが一日だけの展示空間になった。2022, scaling to the whole of the Netherlands. Some 5,000 screens acted in concert, turning a country into a one-day exhibition space.© Studio Dumbar/DEPT®source

クリエイティブディレクターの Liza Enebeis は、この経験を「国がまるごと、ひとつの巨大な、生きた展示空間へと変わる」と表現している。重要なのは、それが比喩ではなく運用の事実だという点である。展示室の壁が国土の上に分散し、来場者は鑑賞のために移動するのではなく、ただ日常の動線を歩くだけで作品に出会う。鑑賞は目的ではなく、移動の副産物になる。路を行くこと自体が、展示を見ることと重なる。

キュレーションという背骨

配信網を束ねるだけでは、それは大規模なスクリーンジャックに過ぎない。DEMO を展示たらしめているのは、その上流にあるキュレーションの体制である。2022年の編成では、Liza Enebeis を中心に、クリエイティブコーダーの Tim Rodenbröker、デザイナーの Koos Breen、VR スカルプティングのデュオ Yonk、アニメーションディレクターの Connor Campbell ら複数のキュレーターが選定にあたった。

集まった作品は、Total Motion、Slow Motion、Graphic Moves、Shapeshifters、Algorithmic Adventures、Better Than Real といったテーマ群に編まれる。秒単位の尺、無音での成立、移動する視線への耐性 ——屋外スクリーン特有の制約を前提に、何が「路の上で成立する画か」が選別される。美術館の壁面とは異なる、移動と分散を前提にした鑑賞のための編集である。

DEMO is there to celebrate the work. It's not a competition.

Liza Enebeis / It's Nice Thatsource

DEMO が賞でも競争でもなく「祝祭」だという Enebeis の言葉は、単なる理念表明ではない。屋外スクリーンに作品を流すという行為から、序列をつける審査の枠組みを意図的に外している。そのことが、2019年に駆け出しだった作り手たちが回を重ねるうちに業界で名を知られていく ——という、ゆるやかな共同体の形成を可能にした。配信網という冷たいインフラの上に、人の連なりとしてのコミュニティが乗っている。

都市から都市へ

2025年、DEMO はオランダの国境を越えた。7カ国・15都市 ——アムステルダム、ハンブルク、ブリュッセル、バルセロナ、マドリード、バンクーバー、ロサンゼルスなど—— の公共スクリーンが、同じ24時間のあいだにモーションデザインへと切り替わった。350組を超えるデザイナーの、600点以上の作品。広告配信網の反転という実験は、ひとつの国の特殊事例から、複数の都市を横断する現象へと育った。

fig.0042025年、7カ国15都市へ。広告配信網の反転は国境を越え、複数の都市を同時に貫く現象になった。2025, reaching 15 cities across 7 countries. The inversion of the ad network crossed borders into a phenomenon spanning multiple cities at once.© Studio Dumbar/DEPT®source

物理的なスクリーンに加えて、2025年版にはオンラインの会場 DEMOVERSE が用意された。10のテーマ別の3D空間に、歩き回る「DEMO」の文字たちが住まう仮想の展示空間である。現地の路を歩けない者にも、ネットワーク越しに同じ作品群が開かれる。路上のスクリーンと仮想空間という二つの配信面が、ひとつのフェスティバルのなかで並走した。

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fig.0052025年版のキャンペーン・アイデンティティ。歩き出す「DEMO」の文字が、フェスティバルそのものの可動性を体現する。The 2025 campaign identity. The walking DEMO letters embody the festival's own mobility.© Studio Dumbar/DEPT®source

路に灯る点

DEMO がモーションデザインの祭典であること以上に、本誌が注目するのはその空間構造である。ふつう、展示は場所を確保することから始まる。壁を立て、部屋を区切り、来場者を呼び込む。DEMO はその順序を反転させる。すでに国土に張り巡らされた配信網 ——人が日々それと知らずに通り過ぎている広告スクリーンの群れ—— を、一日だけ展示面として借り受ける。場所を作るのではなく、経路を読み替える。

ここに、本誌が「間(MA)」と「点景」という対概念で見てきた都市と画面の関係が、もうひとつの相を見せる。広告のために空けられたスクリーンの時間は、本来は商業の「間」である。DEMO はその間を、商品ではなくモーションで満たす。そして移動する人々の視界に、ふいに立ち上がる動く画は、まさに山水画の点景のように、見慣れた都市の風景を一瞬だけ別のものに変える。駅の雑踏、空港の搭乗待ち、渋滞の高速道路 ——どれも美術鑑賞とは最も遠い時間と場所に、点が灯る。

配信網は、本来きわめて効率的な広告装置である。誰に・いつ・どこで何を見せるかを、中央から最適化する仕組みだ。DEMO は年に一度、その最適化の論理を止め、効率では測れないもののために同じ網を使う。路は移動のための経路であると同時に、出会いのための経路でもありうる ——そのことを、世界中のスクリーンが24時間だけ証明する。展示室は建てるものだと、誰が決めたのか。DEMO の問いは、そこにある。

出典

  1. fig.001DEMO — Design in Motion Festival 2019, After Movie (Amsterdam Central Station) — Studio Dumbar/DEPT®
  2. fig.002The making of DEMO: The world’s largest design and motion festival — Studio Dumbar/DEPT®
  3. fig.003DEMO Festival 2022 Trailer — Studio Dumbar/DEPT®
  4. fig.004DEMO 2025 — Aftermovie — Studio Dumbar/DEPT®
  5. fig.005DEMO — Design in Motion Festival 2025, Campaign Identity — Studio Dumbar/DEPT® (Instagram)
  6. [6]DEMO Festival — Official Site
  7. [7]Studio Dumbar/DEPT® — DEMO 2025
  8. [8]350 designers strong, DEMO Festival 2025 proves just how far motion design has come — It’s Nice That(2025-04-15)
  9. [9]Reflecting on a bold year for motion design with DEMO festival — It’s Nice That(2022-12-16)
  10. [10]Largest digital design festival takes over screens in the Netherlands for 24 hours — DEPT®

運用カルテ

運営主体
Studio Dumbar/DEPT®(ロッテルダム)+ Exterion Media NL ほか DOOH 事業者12社
掲出地
オランダ
編成モデル
広告枠の時間譲渡 — 競合する広告事業者群が年に一度、自社配信網を24時間のモーションデザイン展示に開放
稼働リズム
年1回・24時間。2019年アムステルダム中央駅から、2022年に全国約5,000面、2025年に7カ国15都市へ拡大
物理仕様
駅・空港・商業施設・高速道路沿いのスクリーン群を同期配信。2025年版は3D仮想会場 DEMOVERSE を並走
運用開始
2019-11
稼働状態
稼働中

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