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都市にパンダを宿す器 — 成都・春熙路の裸眼3Dと《I Am Here》

A Body for the City's Panda: Chengdu's Naked-Eye 3D and Lawrence Argent's I Am Here

No.
120
種別
事例
著者
SCREENS LANDSCAPE 編集部
日付
読了
11分

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夜の春熙路、成都の中心商業区。中纱帽街と東錦江街が折れ曲がる角に立つと、太古里の大型LEDの表面で、一頭のパンダが画面の縁に前脚をかける。胴がせり出し、こちらへ顔を傾け、数秒だけ通りの上空に身を乗り出す。平面のはずのスクリーンから、確かに体積を持った生き物が抜け出してくる。

そこから数百メートル。成都国際金融中心(成都IFS)の建物の角には、もう一頭のパンダが2014年からよじ登り続けている。高さ約15メートル、重さ13トンの巨大な彫刻だ。屋上の縁に手をかけ、街を見下ろして、にやりと笑っている。

同じ都市の同じ街区に、二頭のパンダがいる。一方は鋼でできた不動の塊、もう一方は光が一瞬だけ立ち上げる像。成都という街は、自らの象徴である動物に、性質のまったく異なる二つの「器」を与えている。本稿は、この二つの器を並べて読む試みである。

鋼の器 — よじ登るパンダ

成都IFSは2014年1月14日に開業した。その開業を記念して、ビルの北東角に据えられたのが、イギリス出身の彫刻家ローレンス・アージェント(Lawrence Argent)による《I Am Here》である。

幾何学的な面で構成されたパンダは、約120フィート(36メートル超)の壁面をよじ登り、屋上から顔だけをのぞかせて、街を見下ろしている。「私はここにいる」というタイトルは、その人を食ったような表情そのものから来ている。世界でもっとも希少な動物の一頭が、新しい高層ビルに無邪気に取りついて「ここにいるよ」と告げる——という構図だ。

この作品は、香港のクリエイティブ・スタジオ AllRightsReserved がアージェントに委嘱した、パンダ保護のためのチャリティ・アートプロジェクトとして生まれた。フェレル・ウィリアムスやヨウジヤマモトといった世界の作り手たちが小型のパンダ像をデザインし、それらをオークションにかけ、収益はすべて中国大熊猫保護研究中心に寄付された。当初は期間限定の設置だったが、人気のために恒久展示へと切り替わった。

アージェント(1957–2017)は、デンバーのコンベンションセンターをのぞき込む高さ約12メートルの青い熊《I See What You Mean》(2005)でも知られる作家である。巨大な動物が建物に好奇心を寄せ、内側を、あるいは街をうかがう——という同じモチーフが、成都ではその都市の固有種であるパンダに置き換えられた。彫刻は、街の象徴を不動の鋼の身体として街角に固定する装置である。

光の器 — 抜け出すパンダ

彫刻の数年後、同じ街区のもう一つの角で、二頭目のパンダが動き始めた。

太古里・春熙路の盈嘉大厦の壁面に設置された大型LEDは、約888平方メートルの主画面に約450平方メートルの画面が隣接し、8Kの解像度を持つ。画面は建物の角に沿って約90度に折れ曲がっており、この湾曲した面の構成こそが仕掛けの核心にある。視点を限定したアナモルフィック(歪像)の手法を使うと、平面の連なりが、特定の角度から見たときだけ奥行きのある立体として像を結ぶ。LEDパネルは深圳の Liantronics が供給した。

画面に流れる裸眼3Dの映像を手がけているのは、成都を拠点とする映像制作スタジオ、燧石行(Flint Walk)である。同社の代表作「致敬熊猫(Panda Tribute)」は、世界初の裸眼3D・実写によるジャイアントパンダ映像とされる。制作チームは中国大熊猫保護研究中心と組み、臥竜の神樹坪基地で四日間にわたって実際のパンダを撮影した。2021年に公開されたその映像のなかで、パンダは画面の縁を乗り越え、前脚を通りへ突き出してくる。宇宙船や巨大な機械の手が枠を破って現れる別の3D映像も、同じ手法で作られている。

fig.001燧石行(Flint Walk)による太古里・春熙路の裸眼3D映像。湾曲したLED面の角を使い、実写のパンダが画面の縁を越えて通りへ身を乗り出す。FlintWalk's naked-eye 3D piece for Taikoo Li, Chunxi Road. Using the folded corner of the curved LED surface, a live-action panda hauls itself over the edge of the screen and leans into the street.© FlintWalk(燧石行)/ 中国大熊猫保护研究中心source

ここで重要なのは、この大画面が本来は商業のDOOH(デジタル屋外広告)の枠であるという事実だ。3Dのパンダは、通常の広告サイクルの合間に数分おきに数秒だけ差し挟まれる。夜の限られた時間帯に通りかかった者だけが、その瞬間に立ち会う。燧石行の共同創業者は、スクリーン運用の成否を分けるのは「自前で生み出すコンテンツの創造性」だと語っている。広告面でありながら、その面に何を映すかという編集の質を事業の中心に据える——この立場が、成都の角を単なる広告塔から、パンダが毎晩立ち上がる舞台へと変えている。

角という「間」、点景としてのパンダ

二つの器は、まったく別の技術でできている。一方は鋼板を溶接した不動の彫刻、もう一方は光と歪像の演算が一瞬だけ立ち上げる像だ。それでも、両者は驚くほどよく似た構造を共有している。

どちらも、建物の「角」を必要とする。アージェントのパンダは、ビルの縁という稜線がなければ「よじ登る」姿勢を取れない。燧石行のパンダは、画面が90度に折れ曲がる角がなければ、平面から「抜け出す」立体に見えない。角は、二つの面が出会って空間が生まれる場所——日本の空間美学でいう「間」である。成都のパンダたちは、この街角の間を足場にして、はじめて体積を獲得する。

そして、いずれのパンダも、街の風景に小さく点される「点景」として働いている。圧倒的なスケールを誇りながら、それらは街を埋め尽くすのではなく、特定の角に、特定の瞬間にだけ現れる。山水画に描き込まれる小さな人物や舟のように、巨大なビルと雑踏という風景に、ふいに意味を点す。しかも二頭とも、その出自を中国大熊猫保護研究中心という保護の現場につないでいる。成都にとってパンダは単なる愛玩の意匠ではなく、街がその絶滅危惧の固有種を都市の規模で立ち上げてみせる、生態と象徴の結び目なのだ。

アナモルフィックな裸眼3Dという手法そのものは、いまや世界の都市スクリーンの共通語になりつつある。ソウルのCOEX K-Pop Square で水槽のなかに巨大な波が閉じ込められた d'strict《WAVE》(2020)は、その語彙が一気に拡散する起点になった(「ガラス箱のなかの波」で詳述した)。WAVEが画面という平面の表現そのものを主題にしていたとすれば、成都のパンダが見せているのは、街の象徴を「どんな身体に宿すか」という器の問題である。

事実、この器は成都の中で増殖を続けている。2024年には交子公園の商業区に、高さ約20メートルの裸眼3Dパンダが別の大画面で立ち上がった。鋼の彫刻が街角に一頭を固定したのに対し、光の器は街のあちこちで複製され、増えていく。

同じ totem、二つの身体

成都を歩くと、街がいたるところで自らの象徴を反復していることに気づく。看板に、彫刻に、画面に、パンダがいる。そのなかで春熙路の二頭は、象徴を「器に宿す」という行為の、もっとも対照的な二つの解を示している。

一頭は、半永久的に角に張りついて街を見下ろし続ける。もう一頭は、夜の数分間だけ通りの上空に身を乗り出し、また広告の流れのなかへ消えていく。固定と消失、鋼と光、彫刻と歪像。だが立ち止まって見上げる者にとって、その差はおそらく大きくない。どちらの瞬間にも、街角という間に、一頭のパンダが「ここにいる」と告げているからだ。

出典

  1. fig.001FlintWalk(燧石行)— 跟随熊猫兄妹游成都・成都太古里裸眼3D
  2. [2]Lawrence Argent — I Am Here(作家公式サイト)
  3. [3]AllRightsReserved — I AM HERE
  4. [4]“I AM HERE” Panda — Chengdu IFS 公式サイト
  5. [5]'I am here' giant panda debuts in Chengdu — China.org.cn
  6. [6]Giant panda scales Chengdu mall — China Daily
  7. [7]World's first panda-themed naked-eye 3D video debuts in Chengdu — ECNS
  8. [8]成都太古里的3D熊猫,真没你看到的那么简单 — 澎湃新闻
  9. [9]Virtual Pandas Loom Over Busy Chengdu Street Corner — invidis

運用カルテ

運営主体
太古里・春熙路 盈嘉大厦の商業DOOH面(裸眼3Dコンテンツの制作・編成は燧石行)
掲出地
成都
編成モデル
広告枠の時間譲渡 — 通常の広告サイクルの合間に、スタジオ自前の裸眼3D映像(《致敬熊猫》は中国大熊猫保護研究中心と協働の実写)を差し挟む
稼働リズム
夜の限られた時間帯、数分おきに数秒だけ出現
物理仕様
主画面約888㎡+隣接約450㎡、8K。建物の角に沿って約90度に折れる湾曲面(アナモルフィック)。LEDパネルは深圳 Liantronics 製
運用開始
2021
稼働状態
稼働中

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